「じゃ、また明日。」


そう笑顔で帰って行く滝沢くんの後ろ姿を、私は見えなくなるまで見送った。

出逢ったばかりの男の子に、家まで送ってもらうなんて思ってもみなかった。

優衣のおかげかな?

明日は優衣からの質問攻めだろうな…と思いながら、鞄から家の鍵を取り出しドアを開ける。

カチャ…

「ただいま」と誰も居ない家の中に向かってポツリと言う。

当然、返事なんて返ってこない。

ずっとこんな感じだから慣れたけど、やっぱり少し寂しいな…。

私は家に入って鞄を置き、着替えてから夕飯の支度に取り掛かる。

今日は何にしようか?

きっとパパは疲れてるだろうな。

仕事もだけど、今は私の事で悩ませてしまってるはず…

パパは心配事があると、すぐに胃が痛くなっちゃうから、今日はあっさりとしたものにしよう。

冷蔵庫から材料を出して、いつもの様に手際よく作っていく。

ご飯も炊けて料理も出来たころ

ピポ、ピポーン…

いつものリズムでチャイムが鳴る。

カチャッとドアが開き、パパの笑顔が見えた。

「ただいま。」

「お帰りなさい、パパ。」

昨日から、なんとなくパパが私に気を遣ってるのがわかる。

パパの転勤のこと、美咲さんとの結婚のこと、一晩中私なりに考えた。

すごく悩んだけど、今日これからパパに私の考えを伝えようと思う。

パパはいつものように手を洗ってうがいをし、部屋着に着替えてからダイニングへやって来た。

私は用意しておいた夕飯をテーブルに並べ、いつも通りパパの向かいの椅子に座る。

今日もパパは「美味しい」と言ってパクパクと食べてくれている。

言わなきゃ…

きっとパパを悩ませてしまうけど、ちゃんと言わなきゃ…

「…パパ、お願いがあるの。」

私は意を決して言葉を発した。

大事な話しをすると分かったパパは、お箸を置いて私の言葉を静かに待ってくれている。

すぅ……

私は深呼吸をしてからパパの眼を真っ直ぐに見て伝えた。




「私に一人暮らしをさせて下さい。」



パパの表情が一瞬にして曇った…