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僕はボーとしながら夏樹の後をついていく。

なんとか休みが取れたから、葵に会うために直ぐに飛行機の手配をし日本へ帰って来た。

まさか…こんな状況になるとは思っていなかった。

離れているこの一ヶ月の間に葵に彼氏ができて、しかも夏樹の息子の春斗くんで…

なかなか人に弱みを見せない葵が、春斗くんには心を開いてるように見えた。

これまで笑顔しか見せなかった葵が、人前で涙を流すだなんて……

葵の涙を見たのは愛莉の葬式以来だった。

あの時、僕と葵は「いつも笑顔でいよう」と約束を交わす。

それを今までずっと頑なに守ってきた葵。

本当は弱いくせに、いつも強がって幼い時から父親である僕にも甘えてこなかった。

僕はそんな葵を見ているのか辛くて、どうしたら頼ってくれるんだろう?甘えてくれるんだろう?

今までずっと考えてきたのに…

春斗くんは、いとも簡単に葵に心を開かせた。

僕に何が足りなかったのだろう?

「とりあえず、ビールでいいか?」

夏樹が僕の返事を待たずに注文をする。

すぐに冷えたビールが運ばれてきて、僕達はカチンッとグラスを鳴らしてからゴクゴクと飲んだ。

適当に酒のあてを注文し終わった夏樹が話し出す。

「それにしても、ビックリしただろう?まさかハルと葵ちゃんが付き合ってるだなんて。」

「ビックリどころじゃないよ。ハルちゃんが男だったうえ、娘を取られそうなんだから。」

アハハ…と笑いながら枝豆を食べる夏樹。

「…やっぱり、葵と離れて住むのは避けたいな。夏樹にも迷惑をかけてしまうし。」

「何言ってるんだよ。うちは葵ちゃんが居てくれてありがたいくらいだよ。

葵ちゃんのおかげでハルも落ち着きてきたしね。」

夏樹の話しでは、どうやら春斗くんも両親の離婚やあの見た目で苦労してきたみたいだ。

「そっか…。
春斗くんも大変な想いをしてきたから、葵の気持ちがわかったのかな?

だから、あの葵が心を開いたのかもな。

僕はずっと傍にいたのに、葵がいつ捨てられるかと不安がっているなんて全く気づかなかったよ。

父親失格だな…。」

はぁ…と溜息をつき残りのビールを一気に飲み干した。

「バカだな、そんなこと無いよ。

暁人は立派な父親だよ。あんないい子に育てたじゃないか。

お前の事を好きだからこそ不安になったりするんじゃないか?

もっと、自信を持てよ。」

そう言ってニッコリと優しく笑った夏樹に、少し癒された気がした。

夏樹と話していくうちに落ち着きを取り戻し、考えがまとまってくる。

「僕が美咲と結婚してニューヨークへ行き、葵は夏樹の家で春斗くんと仲良く今まで通りに生活するのがベストってことか?」

「そういう事だね。
葵ちゃんの事は私とハルに任せてよ。」

「お前の息子、本当に大学ストレート合格して葵を養うようになれるの?」

「ああ見えてもハルは私より賢いよ。
首席入学だし、大学も国立に行きたいみたいで…たぶんストレートで合格するよ。
将来は弁護士になりたいって言ってるんだ。」

「……頼もしすぎて、なんか面白くないな。」

俺は少し複雑な気分でその日は過ごした。