俺は皆んなに教室へ戻るよう指示し、子ブタの手を引き自宅へ帰ってきた。

両想いの涼介には悪いが、今日は俺に子ブタを預けて欲しいと思った。

今日で子ブタを構うのは終わりにするから…

カチャ…

リビングに繋がるドアを開け、俺は子ブタをソファに座らせる。

「大丈夫か?」

子ブタの前にしゃがみ、小さな冷たい手を両手で包み込みじっと見つめた。

目には涙が溢れ今にも零れ出しそうな状態だ。

「俺しか居ないんだから、そろそろ泣けば?」

「…泣かない。ーーてか、泣いてない。」

天井を見て涙が零れないように必死に頑張っている子ブタ。

本当、強情なヤツ……

「また、頬を引っ張って欲しいわけ?」

前も泣くのを我慢してたから、泣かせる為に頬を引っ張ったよな。

俺は子ブタの頬に手を当てた。

「う…痛いのイヤだ…。」

俺の手に涙が伝う。

「じゃ、こういうのはどう?」

子ブタをそっと優しく抱きしめ、小さな頭を撫でてやる。

「……こっちがいい…ぐすっ…。」

そう言って泣きながら俺の背中に手をまわした子ブタ。

「…あっそ。」

素っ気なく返事をしてみるが、俺の鼓動は素直で…めちゃ早い。

……ん?

ハハ…なんだ。

子ブタの心臓も同じくらい早いじゃん///

触れ合った身体からお互いの鼓動が伝わってくる。

「なに緊張してんだよ、ばーか。」

子ブタの頭をクシャクシャとした。

「うるさい///ヒック…緊張なんてするわけないじゃん。」

「フッ、生意気…。」

俺は子ブタの手を自分の首にまわしてから抱き上げ、ソファに座り膝の上に子ブタを乗せる。

子ブタは俺の首に手をまわしたまま大人しく胸で泣いていた。

「ーーーで?いつ、思ってる事を吐き出すんだ?」

「……………………………。」

「お前さぁ、いいかげん俺にくらい甘えろよ。」

いつも一人で抱え込んで、限界なのに人に頼る事をしない子ブタ。

コツンッと軽く頭突きをしてやる。

しばらくして、子ブタは弱々しい声で話し出した。

「…………………………。
……私、気付かないうちに沢山の人を傷つけてた。パパに美咲さん、優衣…ううん、もしかしたら他にもいるかも知れない。

私が結婚をすぐに認めてあげたら良かったんだよね。

……でも、パパが美咲さんと結婚したら、きっと他人である私の居場所なんて無くなる。

うっ…ヒック…

ただ、ただ、それが怖くて反対してた。

一人で生きていくにも、高校生の私には生活力もなくて…。」

子ブタは俺の腕の中で小さな肩を震わせていた。

「馬鹿か?お前は。」

俺は子ブタの後頭部に手をまわし、ぐっと引き寄せた。

「お前の親父がそんなこと思うわけねぇだろ。
籍も入れてない女の子供を引き取るくらいだぜ?

よっぽどお前の母親に惚れてたんだよ。

その惚れた女の子供なんだから、大切な存在に決まってるだろ。

自信もてよ。お前は間違いなく親父に愛されてるよ。」

「…………………ありがとう。
大賀見ってなんか説得力があるね。」

まだ瞳に涙を溜めたまま、子ブタがニッコリと笑った。

可愛いじゃねーかっ、チクショー///

ずっと、こいつを独占しておきたいけど…

親父や桂の事もなんとかなりそうだし

涼介に渡さないとな………

残念だけど俺の役目もこれまでか……………。

本当は離したくない。

でも、そうは言ってられねぇんだよな?

早く手放さないと…

長くなればなるほど離せなくなる。

子ブタが落ち着きを取り戻し泣き止んだのを確認してから、膝の上の子ブタをソファに座らせ、涙で濡れた頬を指で拭き取る。

こうやって子ブタに触れるのも最後かと思うと遣る瀬無い気持ちなる。

「……大賀見?」

黙り込んだ俺をキョトンとした顔で見上げる子ブタ。

手放したくない…

そう思いながら心とは裏腹な言葉を子ブタに告げる。



「お前……涼介に大事にしてもらえよ。」




子ブタの頭をポンポンとしてから俺はその場を離れた。