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この日の朝、俺はいつもより早く家を出た。

こんな時間に学校へ行くのって人生の中で初めてじゃねぇか?

そんな事を思いながら校門をくぐり抜け裏庭へと向かう。

裏庭に着くと一人の女が俺の気配に気付き振り返った。

「春斗く〜んっ。」

ボブカットにアヒル口、甘ったるい声で俺の名前を呼ぶ女…

俺は沢口 茉莉花を裏庭へと呼び出していた。

余計な会話なんて必要ないので、いきなり本題に入る。

「お前に聞きたい事がある。」

「なぁに?」と言って首を傾げる沢口の神経を疑いたくなる。

オリエンテーションの時に、この女の胸ぐらを掴み脅したつもりだったけど、あまり効果はなかったのだろうか?

「単刀直入に聞く。お前、まだ懲りずに小辺田に嫌がらせしてるのか?」

お前が白咲を使って子ブタにあんな事したのか?

「なんの事?」

キャンプファイヤーの日、アツイがされたことを思い出し理性を失いそうになった。

俺は沢口を威嚇するように睨み付ける。

「惚けたらマジで許さねぇぞ。」

「ほ、本当だって。私だって春斗くんにあれだけ怒られたら、さすがに怖いよ…。」

沢口が眉を下げ肩を窄めながら言った。

俺は深く深呼吸をして冷静さを取り戻す。

喋り方がいつものように間伸びした感じじゃない。

真面目に答えてるってことか?

少し涙目になっていて肩にずっと力が入っている。

どうやら本当のことらしい。

………じゃあ、白咲が告白した女って

誰なんだ?

「私のこと…まだ疑ってる?」

今にも泣きそうな顔でこっちを見てくる沢口。

「……いや。でも、お前の事は許すつもりはない。たとえ小辺田が許したとしてもな。
今日は呼び出して悪かった。」

俺がその場を立ち去ろうとした時

「待って。」

沢口が俺の袖を掴み引き止めた。

「なんだよ、離せよ。」

沢口に触れられるのが不快で、俺は沢口を冷たく引き離す。

「…ごめんなさい。私、葵ちゃんに酷いことした。ちゃんと葵ちゃんに謝るよ。

それから…

もしかしてなんだけど、春斗くんたちって白咲くんが告白した相手を探してる?滝沢くんが探してたって聞いたけど…。」

沢口の予想外の言葉に驚き心拍数が上がる。

「お前、相手のこと知ってるのか?」

「…うん。お詫びって言ったら変だけど…。相手が誰か教えてあげる。」

俺は沢口の次の言葉を息を呑みながら待った。

沢口はゆっくりハッキリとその相手の名前を言う。



「桂 優衣だよ。」