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お昼ご飯を食べてから薬を飲んで、今はベッドの中。

「大賀見ってば、意外と心配性だなぁ。」

さっき熱を計ると微熱がまだあった。

このくらいの熱、なんともないのに…

「お前は何も考えずに大人しく寝とけ」と言われて、仕方なく大人しく言うことをきいている。

薬を飲んだから、そのうち眠たくなると思うけど…

大人しくしてると、つい考え事をしてしまう。

優衣がなぜ私を避けるのか?

なぜ白咲くんはあんな事をしたのか?

私とパパに血の繋がりがない事で、優衣が私を避けるとはどうしても思えない。



「……っ、被害者ぶってる葵に腹がたつ。アンタのせいでっーーー…。」



あの時、非常階段で優衣は何を言おうとして飲み込んだのか…

私が被害者ぶってる?

私のせいで誰かが苦しんでるの?

私は気付かないうちに誰かを傷つけているんだね。

パパだけじゃなく、他の誰かのこともーーー



白咲くんの事もわからない。

チャラチャラしてるようだけど、本当はそんなことないって思う。

だって…いつも白咲くんの視線は一人にしか向いてない。

他の女の子には気軽に触れるけど、その子には決して触れない。

簡単に触れることが出来ないほど、その子のことが好きなのに

すごく辛そうな顔で………

私にあんなことーーー

昨日のことを思い出し、背中がゾクッとする。

白咲くんは悪い人じゃないって分かってる。

頭では理解してるけど、心が受け付けてないのがわかる。

「はぁぁぁぁぁ……。」

天井を見上げ大きな溜め息をついた。

コンッ、コンッ

ノックされドアがゆっくりと開く。

そこから見えた人物を見て私は驚いた。

「滝沢くんっ⁈」

私はビックリして体を起こし、ベッドの脇に置いてあるクッションをぎゅっと抱きしめた。

「おっきな溜め息だね。廊下まで聞こえてきたよ。」

クスクスと笑いながら滝沢くんが部屋に入って来る。

「うそっ⁈そんなに大きかった?」

閉めているドアを通り越して廊下まで聞こえる溜め息って…は、恥ずかしい///

「あはは…結構、大きかったよ。
それより、体調はどう?まだ微熱があるんだって?」

滝沢くんはドアを閉めてからベッドの横に置いてある椅子に座った。

「このくらいの熱なんて平気なのに、大賀見に無理矢理寝かされてるの。」

「ハルって、ああ見えて心配性だからね。
自分のことは構うなって言うのに、人のこととなると凄く構ってくるんだよね。」

「だよね。
朝もお昼も私がご飯を作るって言ってるのに「俺がする」ってきかなくて。
「お前は寝てろ」しか言わないんだよ。
ずっと寝てるのも、けっこう疲れるのにね。」

私は拗ねてプゥと頬を膨らませた。

少し空気で膨らんだ私の頬に、滝沢くんの大きな右手がそっと添えられる。

「た、滝沢くん///⁈」

とても熱く、そして切なそうな瞳で私を真っ直ぐに見つめる滝沢くん。

「どうして…ハルなんだろう?
僕は君の隣で守ってあげたいと思うのに…。
いつも君を守っているのはハルだ。」

滝沢くんが苦しそうに顔を歪めながら言った。

「そんなことないよっ。滝沢くんだって、いつも私を助けてくれてるよっ。
私、いつだって滝沢くんの笑顔に救われてるよ。」

そう、階段を落ちそうになった時も、スリッパがなくなった時も、オリエンテーションの時も、助けてくれたし隣で笑顔を私に向けてくれた。

私は頬に当てられている滝沢くんの手をぎゅっと握りしめる。

「…….っ///」

滝沢くんはパッと目を逸らし、私の手をそっと掴み布団の上に置いてから離した。

「滝沢くん?」

今度はガシガシと頭を掻いてから口元に手を当て私の方を見る。

久々に見た。パパと同じ癖だ。

「小辺田さんって、無防備だよね///」

「へ?」

なんで?どこが?

えっ?いつ??

「天然って、ほんとタチが悪いよね。」

あの……

おっしゃってる意味が全くわかりませんが…

「全く可愛いすぎるよ。」

そう言って滝沢くんは私の頭をポンポンとして椅子から立ち上がる。

「僕、このまま居ると理性が保てないので帰るね。」

理性?保つ?

首を傾げる私を見てクスッと笑い「じゃあ、また月曜日に」と言ってドアに手を掛けた。

「あっ、待って。滝沢くんっ。」

慌てて私が呼び止めると、どうしたの?って顔で振り返る。

「オリエンテーションで寝込んでいる時、滝沢くんもずっと側に居てくれてたんだね。」

「ハルから聞いたんだ?
本当は小辺田さんが目を覚ますまで、側に居たかったんだけどね。」

はは…と苦笑いする滝沢くん。

仕方ないよ。

キャンプファイヤーに滝沢くんが居ないと、たくさんの女の子達が困るもん。

「嬉しかった。ありがとう。」

滝沢くんは「どういたしまして」と、ひと言だけ言って部屋を出て行った。

しばらくして薬が効いてきたのか、私は知らないうちに眠っていた。