*****

その日は何事もなく放課後を迎え、私は中庭の掃除当番で掃き掃除をしていた。

優衣と大賀見も同じ中庭の掃除当番で、少し離れたところにいる。

優衣は上級生のたくさんの男子達に囲まれながら掃除をしていた。

大賀見はというと、近づくなオーラを出しながらベンチに座りさぼっている。

ベンチの周りには、たくさんの女子が集まりドーナツ化現象が起きていた。

あの二人って本当にモテるな…。

障害物がなく身軽な私は、サッサとゴミを掃いて仕事に励む。

ひと通り掃き掃除が終わって、私がゴミを袋へ入れていると




バシャッ‼︎




急に空から雨が降ってきた。

しかも、かなりの集中豪雨…

私だけが…びしょ濡れで………。

私が居るところは運悪くちょうどトイレの真下。

マジか………これも嫌がらせだよね?

さすがにこれは凹むよね。

トイレのバケツに水かぁ………。

イメージ的になんかね。

イヤだよね。

ずぶ濡れになったまま、そんな事を考えていると

「葵っ、大丈夫⁈」

優衣が上級生男子を掻き分けながら、走って来てくれた。

「…うん、大丈夫。ただの水だし。」

「バカッ。水とかそうゆう問題じゃないでしょ。この前から何なの?スリッパの次は水⁈」

優衣が上にあるトイレの辺りを見上げながら言った。

これも茉莉花ちゃんがやったのかな?

さすがに…そろそろ止めて欲しいんだけど。

抗議をしに行くにしても、証拠がないから何も出来ないしな…

とりあえず、風邪をひくといけないから、ブレザーだけでも脱いでおこう。

私はぐっしょりと濡れたブレザーを脱いで絞る。

明日には乾くようにしとかなきゃ。

「ヒュー、ヒュー。」

「うわっ、サイコーの景色。」

優衣の周りにいた上級生男子が、なにやら騒いでいる。

何がいい景色なの?

ここ普通の中庭だよ?

「ピンクだぁ。俺好み///」




ピンク???



……………………え…………っ⁈




私…下着が透けてるっ///⁈





そう思った瞬間ーーーーー





バサッ………




私の肩に大きなブレザーが掛けられた。

「それ、着とけよ。馬鹿。」

「大賀見…///」

大賀見は私の肩を力強く抱き寄せ、騒いでいる上級生男子を睨んでいる。

「お前ら、それ以上なにか言ったら、容赦なくぶっ殺すっ‼︎」

上級生男子は全員、大賀見の迫力に負け黙って固まってしまった。

「行くぞ…子ブタ。」

それだけを言って、大賀見は私を守るように優しく肩を抱きながら家まで連れて帰った。


◇◇◇◇◇◇◇



バシャッ‼︎



気がつけば、アイツがずぶ濡れになっていた。

俺は水がブチまけられた方を見上げる。

女子トイレに誰かいるっ⁈

そこには、バケツを手にしたあの女がいた。

………沢口 茉莉花。

俺と目が合い慌ててその場を去っていく。

ひょっとして、この前のスリッパもあの女か?

俺の所為で子ブタは嫌がらせをされてるってことか?

俺はずぶ濡れになった子ブタに視線を戻した。

っ///⁈

「ヒュー、ヒュー。」

「うわっ、サイコーの景色。」

「ピンクだぁ。俺好み///」

子ブタのシャツが濡れて、ピンクの下着が透けて見えていた。

俺は慌ててブレザーを脱ぎ、子ブタに被せてから肩を抱き寄せる。

子ブタが小刻みに震えてるのがわかった。

俺は野次を飛ばしている奴らを思いっきり睨みつけ

「お前ら、それ以上なにか言ったら、容赦なくぶっ殺すっ‼︎」

そう牽制してから、子ブタの細く頼りない肩を抱き寄せたまま家まで連れて帰った。

ムカつく!

他の男に見られるなんて!

こいつをこんなに怖がらせるなんて…

俺がそばに居たのに守れなかっただなんてっ

自分自身にも腹が立って仕方がない。



家に着くとすぐに脱衣所へ行き、バスタオルをとってくる。

「大丈夫か?」

俺はボーと突っ立ったままの子ブタの頭にバスタオルを掛け、濡れた髪を出来るだけ優しく拭いた。

「…ありがとう。」

笑いながら返事をした子ブタ。

普通なら泣いてもおかしくないのに、なに無理に笑ってんだ?

まだ震えてるくせに。

「なに笑ってんだよ、無理すんな。」

「別に…無理なんてしてないよ。」

まだ笑いながら答える子ブタ。

強情っぱりなヤツ…。

俺は子ブタをソファに座らせ、少し冷たくなった頬に手を当てた。

なんで、こいつは無理に笑うんだ?

俺の前ではそんな作り笑いなんて見せんな。

もっと、俺に頼れよ。

俺はお前を守りたいんだ……。

子ブタの柔らかな頬を少し力を入れ引っ張る。

「いひゃいっ。」

「痛かったら泣けよ、馬鹿。」

俺はもう少しだけ力を入れ、再度、頬を引っ張った。

子ブタの瞳に涙が溢れ頬を伝う。

俺は手を放し、少し赤くなった頬を優しく撫でた。

「痛いって言ってるのに…ヒック…」

子ブタはそう言って、ボロボロと大粒の涙を落としていく。

やっと、泣いた…

そうやって泣きたい時は、無理せずに泣いてくれよ。

小さな子ブタを壊れないように優しく抱きしめる。



「ごめんな…これからは絶対に、俺がお前を守るから………」