柴犬~相澤くんの物語り

 「もっとも、ワシは飼い犬じゃった。年をとって足腰が立たなくなって世話が大変だからと、ここに送られてきた。いらなくなったのは、ワシも同じじゃ。一昨日来たからあんたたちより2日早く処分される。あと5日の命じゃ。ワシはもう、どちみち長くは生きられんからかまわんが、ワシの隣の檻には、まだ幼い子犬がいて、不憫でな……」


 じいさんの言葉に耳を澄ますと子犬がしくしく泣いている声が聞こえた。

 「おれだって…おれだって、まだ一年しか生きてないよ」

 新たな涙があふれでた。

 「嫌だよ……まだ死にたくないよ……」

 「相澤君……」

 高宮さんが近付きそっとおれに寄り添う。


 いつもみたいに彼のお腹にもぐりこんだ。

 「あんた、なんで逃げなかったんだよ。じゅうぶん逃げられたのに……そしたらこんなとこに来なくてもよかったのに……」

 「君の側以外にどこに行けって言うんです?」

 彼がおれを抱き締めるように身体を丸めた。


 高宮さんの温もりに包まれると、ほんの少し気が紛れた。抱き締めあったまま、おれたちは、何時間も動かなかった。
粗末な食事を、それでもあと何日かの命を生き延びるためにおれたちは口にした。

 夜になり再び寄り添いあって眠る。

時々、暗闇から「おかあさん……」と、呼びながらしくしく泣き続ける子犬の声が聞こえてきて、堪らない気分になる。きつく目を閉じじっと耐えた。


「私と出会った事…後悔してる?」

 そっと高宮さんが尋ねてくる。
眠れないのは、彼も同じなんだ……。


 「後悔なんてしてない。高宮さんと出会えて嬉しくて、楽しくて、幸せだった。だから…もっと、もっと一緒にいたい……もっと生きたい……」

 涙が静かに頬を伝う。


 高宮さんは、何も言わずおれの頬に顔をすり寄せた……。