一度だけ散歩の途中で高宮さんに会った。

 近所の公園の入り口のところだった。

 一緒に遊んでいることは、お互いの飼い主に内緒だったから、まるで知らない同士みたいにくんくん匂いを嗅ぎあった。



 「あら、お隣の高市さん。立派な犬を飼っておられるんですねえ」

 ショーコさんが彼を見て感嘆の声をあげると、飼い主のおばさんがニッコリと微笑んだ。



 「あら、相澤さん。ご機嫌いかが? まぁ、宅のトオルさんを立派だなんて……ほら、この子アフガンハウンドでございますでしょ? やっぱりアフガンハウンドの命はこの毛並みでございますのよ。だから毎日ブラッシングはかかせなくて……その点、お宅のワンちゃん、毛が短くてお手入れなんて必要いらないでございましょ?」



 ショーコさんの頬が、ヒクッと強ばるのがわかった。

 「まあ、確かにお宅のワンちゃんほどのお手入れは必要ないかもしれませんけど、こう見えてもこの子、きれい好きで毎日シャンプーとシャワーは欠かせないんですよ。自分から洗ってって催促するくらいなんですから」

 うそだ……。


「あら、そうでございましたの? さぁ、トオルさん、帰りましょう。では、ご機嫌よう」

 そのおばさんは、高宮さんをつれてその場を離れた。


 「あー、なんか感じ悪い、あの人! ちょっといい犬連れてるからって、見た? あの目? 完全に見下してた。あんないかにもお金かけてますって犬より、こうたのほうが断然かわいいわよね!」

 ショーコさんは、ぷんぷん怒りながら俺のリードを引っ張って反対側に歩きだす。




 俺と高宮さんは、お互い何度も振り返りながら右と左に別れた。