「あいざわこうた」

 目を閉じたまま答えて昼寝の続きをしようとしたけど、そいつは、ずっとおれの側で、尻尾を振り続け離れようとしない。


 尻尾のパタパタいう音がうるさい。


仕方なく
 「あんた、どうやってこっちに来たの?」と、尋ねた。

 「私は普段は室内で飼われているんですが、昼間はいつも庭に放されて自由にしています。ですから家の塀と…あ…相澤家の垣根を乗り越えて来ました」

 「えっ? あの塀を乗り越えたのか?」

 おれはちょっとびっくりした。高宮家の塀は、人間の大人の身長ほどもありそうなんだ。

 「……で?」

 「はい?」

 「おれに何の用?」

 「あっ、あの……ともだちに……」

 「はあっ? 何度でも言うけど、おれ、雄! わざわざ塀飛び越えてやってくるほどのもんじゃねえと思うぞ。おまけにおれは、そこらにごろごろしてるフツーの柴犬」

 呆れて見上げるとそいつは力説するんだ。

 「いません! 私は今まで何度もコンクールに出場していろんな犬を見て来ましたが君程かわいい柴犬見た事ありません!」

 「かわいいって言うな! おれは……」

 いや、やめておこう……こいつ、なんか怪しい。

 「そりゃどうも。で、今から昼寝の続きするから帰ってくれ」


 ……君子危うきに近寄らずだ。