黎明学園校門前

「いつもお疲れ様です、清さん」
「いえ、これが私の仕事ですので。お嬢様もお勤め、ご苦労様です」

――釧智子(tomoko kusiro)の場合

家に帰ると鞄をお手伝いさんに任せ手洗いうがい着替え。
「お嬢様、今日は藍色の着物でございます。西陣織の道を進み70年の専門職人に作らせました。さぞお気に召すことでしょう存じます」
苦笑いをしながら感謝の言葉を返し受け取る。
それが終わると家にいらっしゃるお父様、お母さまにご挨拶。
純日本家屋の廊下を静かに歩く。
お父様とお母さまがいつもいらっしゃる縁側にあたしは向かう。
三つ折りをついて、頭を深々と下げて、
「智子、ただいま戻りました」
と。

それが終わると今日の報告。
それが終わるとようやく部屋に戻れる。
が、部屋に帰るが早くお茶のお稽古だ、お花だ、日本舞踊だ、と長くは休めない。
しかもそのあたしの部屋が畳に古臭い茶色をしていて金の凝った金具がついている箪笥。
それにちゃぶ台と座卓。
…どこにこんな生活をしている高校生がいるのよ!!!!!!!!!!


あたしの叫びは今日も部屋の壁に吸い込まれていった。