出社すれば、何か柊介に関する事が分かるかも。
そう思っていたけれど、いつも通りの月曜日は慌ただしく過ぎていく。

役員会議のため、会議室の準備をして。
参加者をお出迎えして、ドアを閉めて誰もいなくなった廊下で一息ついた。



超、いつも通り。
誰も“清宮さん”のフレーズを口にしない。万が一にでも弔辞だったら、社員の親族に関するものでも電子掲示板にあがるから。

土曜の柊介はなんだったんだろう。同じ部署のエリーからも何も連絡はないし、やっぱり大したことない用事だったのかなぁ・・・


営業企画部のフロアに立ち寄ってみようか、一瞬迷って。
柊介がいたらいたで今は困るな。
そう思い直して、足早に秘書室へと帰ることにした。









“営業企画部 第二課 江里さんへ折り返し電話してください。080-×××・・・”


席に戻ると、デスクに置かれていた電話メモ。
昨日の今日で、“江里”の響きに甘さが走ったけれど。エリーがこんなことするなんて珍しい。明らかに、仕事以外の要件だと悟る。

柊介の事かも。携帯に折り返しってことは、外出中ってことだよね。
早くかけ直さなきゃ。



マウスに触れて、ログオフ状態だったPCを起動させる。
新着メールの通知ポップアップに気づいて、メールボックスを開いて。

予期せぬ送信主の名に、胸が揺れる。


“海外営業部 第一課 八坂蒼甫”






あの、八坂さんを手伝ってあげた一件以来。
彼からちょこちょこ、業務依頼が入るようになった。
味を占めた?なんて思ってもみたけれど。

開くファイルは、毎度『なんだ、こんな事?』と思うような、秘書課の私からしたら頭を使わずにできる事ばかり。
そして毎度必ず残っている、途中まではやりかけた痕跡に。
本当に困って頼んで来てるんだなぁ、と悪い気がしなかった。


それに、このおかげで少しずつ八坂さんの立ち位置が見えてくる。
どうやら彼は、海営の中でもこれといった担当業務を持たずに課長補佐として立ち回っている模様。課長である廣井さんをアシストするような業務内容ばかりだった。
今更ながら開いた社員名簿で、その名の横についた“課長代理”の役職に合点する。

ていうか、“課長代理”。
優秀だと言われる柊介でさえ、まだ“営業主任”なのに。


男性って大変だなぁ。柊介の事だから、同期で自分より先に昇進した人間がいる事、相当悔しかったに違いない。
それって私と付き合ってる間に起きたことなんじゃないのかな?



柊介の落ち込みにも、感情の起伏にも。

私、全然気づかなかったなぁ・・・。










・・・だめだ、今はこんなこと考えても。


気を取り直して、八坂さんへの返信メールを打つ。

『いつまでですか?』に秒速で返ってくる新着メール。

“明日の昼までにできる?午後の会議で使う”

に対して、

『今日中に送ります。』

と返した。




少しの間の後返ってきたのは、

“鰻、食わないか?”