遅ればせながら。

やっと、廣井さんの帰国祝いを内輪で開くことが出来た。

私と眞子と、エリーと廣井さん。
いつものメンバーで都内のホテル。夏を待ちきれない、少し早めのビアガーデンで。





「出戻りおめでとーございまーす。」杯を上げた眞子に。
「人聞きわりぃぞ!」コケて見せる廣井さん。

「一応、栄転なのに。」涼しい顔でビールを口元に運ぶエリーに。
廣井さんが「一応じゃねぇ!」と予想どおり、被さった。



話題は、眞子主導でもっぱら海営のオトコ事情。
八坂さん以外にも沢山出てきた「イイオトコ」の名前に、私は目がチカチカして。
初耳の名前ばかりで、話についていけない。
向かいのエリーは心当たりがあるのか、時折笑ったり頷いたりしていた。



廣「お前を受付に配置したのは誰なんだよ・・・毎日毎日、そんなに男のプロファイリングしてるのか。汗
もう少し真面目に仕事をしてくれ。」

眞「でしょー?受付は不向きなんで、早く海営に引き上げてください。
海営の仕事に対しては、やる気しかありません♡」


何を返しても応えない、眞子のイイオトコに対するバイタリティに。廣井さんはガックリと肩を落とした。

さすがに可哀想だな・・・廣井さんの帰国祝いなのに、一応。笑



『眞子、来月のサッカー大会応援においでよ。メンバーは海営の人たちだよ?』


眞子は私の親友。責任を取るべく、助け舟を出す。


眞「行く行く!あ、そうだ。
エリー、ちゃんとあの話進めてくれてる?!」


不意に自分に向いた矛先に一瞬目を丸くして、エリーは曖昧に笑いながらグラスを傾けた。


エ「うーん・・・けど俺は部外者だからなぁ。そういうのは廣井さんに頼んだ方がいんじゃない?」

眞「無理無理。この人初老だから、そもそも練習とか飲み会には誘われないよ。」


廣井さんは、律儀にもまた反応しようと口を開きかけたけど。この先の流れを予想したのかスッと気配を消した。


眞「ねーお願いエリー!飲み会開いてよー、この際八坂さんは呼べなくてもいいからぁ!」


肩をすくめるエリー。
あれ?けどなんで眞子は、エリーに海営との飲み会を頼んでるの?



エ「あ、須藤、さっき売り切れてた蟹来たよ。」

眞「まじ?!いる!!」


色気<食い気のようで。眞子は直ぐさま立ち上がって、廣井さんの腕を揺すった。


眞「手伝ってくださいよ、一人じゃ持てない。」


どんだけ食うんだよ、と悪態を吐きながらも廣井さんは渋々立ち上がって。
何か言い合いながら、ほぼ同じ背丈の二人は人が群がる蟹のコーナーへ消えて行く。

仲が良いのか、悪いのか。
まぁ、管理職の廣井さんに対して私たちが仲良しなんていうのもおかしいけれど。
廣井さんには、そういう甘えを許してしまう不思議な寛容さがある。








エ「藤澤、なんか飲み物取って来ようか?」

『ううん、まだ大丈夫。』


エリーの声に向き直ると、瞬間吹いた涼しい風に頬がはらわれた。


エ「飲み過ぎるなよ、連れて帰れなくなる。」

『だから大丈夫だってー!ご迷惑はかけません。笑』


揶揄う口調に、心が解けて。
見慣れた瞳の笑い皺に、反して胸はキュッと締まって。

そういえば、エリーと二人っきりになるの久々だなぁ・・・

なんだか、妙な緊張感。

手の平の中、冷たいグラス。氷山が軽やかな音を立てる。




エ「なんか顔赤くない?まじで大丈夫?笑」

『大丈夫だってばっ。汗』



ふと、左前のテーブルの女の子と目が合った。4人の女子グループ。
チラチラ、ヒソヒソ・・・頬を寄せ合っては、視線を投げかけてくる。



え?なんだろう。私?

知り合い?じゃないよね・・・





________ああ。そっか。

これは、エリーを見てるんだ。