使徒は雨音に隠れて _ 3




見上げた置き時計は、14:07。
いつの間にか寝てた…相変わらず薄暗い部屋の中、そろそろと起き上がる。

叩きつける雨音。
お腹。そっと手を当てると、まだ眠ってるように思える下腹部。


今のうちに痛み止め買いに行こう。例月からすると、こうやって退いたと見せかけてまたすごいのが来る。
この隙を見て、早く備えておかなきゃ。





“またすごいのが来る”と分かっておきながら、私は丁寧に部屋着のワンピースからTシャツとデニムに着替えて。

“この隙を見て”と自覚しながら、顔を洗って日焼け止めを塗った。
ザンバラに広がった髪も、ブラシを通して前髪ごと纏めてポニーテールにした。




その、おかげで。



『あてて……』



通勤用のバッグからミニバッグにお財布を動かす頃には、既に再開した痛みの地響き。

やばい、早く行かなきゃ。
そう思って玄関に向かう途中、そうはさせるかと痛みが追い上げて来る。

出来る限りお腹に響かないよう、そろそろと足を滑らせて廊下を移動したけれど_________




ついに、あと少しのところで座り込んでしまった。
始まった。。痛い。涙




座り込んだまま、上半身を床へ投げ出して大きく伸びる。
だめだ、変わらずに痛い。

今度はお腹を抱えて、床へ横に寝転んでみる。
あ、ちょっとだけ楽かも…?

冷たいフローリングが頬に気持ちいい。
この際、痛みが引くまでこの格好で休んでようかな。。


ゆっくりと息を吐く。吐き切る直前痛むけど、こうやってまた治まるまで耐えるしかない。


週末、拭き掃除までしといてよかった。
まさかここに横たわることになるなんて思ってなかったけど。
安心して頬をつけたまま瞳を閉じた。



















「…こ。…わこ。」



誰かが呼んでる。



「…とわこ。とわこ。」



ホットワインの香りがした。

大きな樽の中の赤い魔法。蜂蜜に隠されたスパイス。

冬の夜、柊介と一つを分け合って飲んだ。
帯びていく熱は、酔いなのか恋なのか分からなかった。

初めて手を繋いでくれた帰り道。左手の体温。見上げた月の形。



「十和子。」



ああ、この声は。

世界で一番大好きな声だ。








「…十和子!」



ゆっくりと目を開けた。

らしくない、必死の形相で。

私を見下ろし、何度も名前を呼ぶ柊介がいた。