ルージュ・ココ・スティロ _ 3






ピンチを救ってくれた眞子には、バニラアイス味の豆乳をお土産に。


「なにこれ!うまっ!」

『でしょー?あと、マンゴー味も美味しいんだよ♡
いつもスーパーで買ってたんだけど、まさかここの売店にもあったとは。笑』


眞子も私も、午後の始業前のつかの間の女子トークタイム。
甘い豆乳は年中「ダイエット中」の眞子には大ヒットした。



「私、こういう意外性のある女になりたいんだよね。」

『意外性?』

「期待せずに食べてみたら、中身はすっごく美味しかったとかさ。」

『食べてもらえば?』

「誰に。」

『エリー、とか。』


突如として、死んだ魚の目になる眞子。


「…あたし今、すっごいエリーが可哀想になった。」

『え、なんで?眞子を抱かないといけないから?』

「違うわっ!笑
しかも抱かなくていいし!!」






週末何をして過ごした、とか。
あれから柊介から連絡はあったか、とか。

そんな実のある話題ではなくて、くだらない日常を話題にケラケラと笑うのが、私の親友の思いやり。




「…あ、そろそろ戻ろっかな。コーヒー、買って来ようかな。」

『そだね、もう列もだいぶ空いたし_____』



人口密度の薄まった社食を見渡して。お蕎麦を啜って、顔を上げると。



『…!!!!!!!!!!ブホッ!!!』

「ぎゃっ、汚なっ!なにもう!!」



一瞬見えてしまった顔に焦って、お蕎麦を一本気管支に招いてしまった。


『い、いたっ…いたっ…!涙』

「なに?!ほら、とりあえずお水!」


お水を差し出してくれる眞子に、ぶんぶんと手を振る。
違う違う、私が言いたいのは…!


『いたっ、いたのっ…!』

「は?痛いんでしょ?だから水飲みなって。」


違う!!涙
もうだめだ、そうこうしてるうちに向こうにも気づかれたら困る!







眞子の後ろに柊介がいる。
正確に言えば、眞子の後ろの人の正面。だから、私と柊介は二人の人を間に挟んでちょうど向かい合って座っていることになる。

だから、こうやって眞子と向こうのお連れさんが頭を下げれば____________




もろ、柊介が見える!!涙



差し出されたお水を飲み干す。喉をクリアにして、涙目でお蕎麦をかきこむ。

最悪。今まで社食で会ったことなんてないのに。
なんでこんな時に限って、しかもこんな近い席で?!

退散しなきゃ!!一刻も早くこのお蕎麦を食べ切って、ここを脱出しなければ_______







『…!!!!!!!!!!ンゴっ!!!』

「だからもうなにってば!怒」



匍匐前進ばりの低姿勢で、次に見つけた相手は。


「ほら、水!さっきから急になんなの?!落ち着いて食べなよ!」






痺れる。

たった一度会っただけで、身体があの気配を覚えてる。



視界に入ってきた途端、私を支配する鮮明なコバルトブルー。

吐息に変わった、アイスミント。









「ねぇ、唇の端に鰹節ついてるよ?」



大口でお蕎麦を啜り、手の甲で拭う。
唇は既に、鳴り響く警報のように熱かった。





あの夜と同じ、彫刻のような容姿で現れた。
甘く蕩かす熱視線を引き下げて。


八坂蒼甫が、食堂に入ってきた。
自分だけフルカラー、すれ違う周り全てをモノクロの世界にしながら。





最悪。なんなの、今日は本当に。