ルージュ・ココ・スティロ _ 2





小堺課長。まだ40代前半なのに、たっぷりしたお腹と丸眼鏡。
エリーが彼を「居酒屋の前にいる狸に似てる」と言って以来、私は彼が密かに可愛い。




申し訳なさそうな課長の口をついて出たのは、「来月末の土曜は空いてる?」という予想外のものだった。


『来月末…5/28、ですか?』

「そう。予定はどうかな?」


先週までの私だったら。
いそいそと手帳を開いて、デートの予定を確認していたはず。

その必要もない今は、あえて口調を強く『空いてます。』と答えた。
柊介以外に入ってるとしたら、ネイルや美容院の予定。そんなのいくらでも、何とでもなる。



「そうか…そうか!分かった、ありがとう。」

『え?』


なになに?不安そうな気配を一転、朗らかに胸をそった彼のお腹はぷるんと揺れた。


『ありがとうって何ですか?その日、何かあるんですか?』

「いやいや、心配しないで大丈夫。
まだどうなるか分からないからね。」




どうなるかって何??
そう続けようと思った矢先、「引き止めて悪かったね。」と両手を合わせられて飲み込んだ。

そうだ、お昼行かないと行けなかった…
何の話だったか気になるけど。

5/28…お昼…。

お昼…5/28…。

いっか、どっちにしてもまだ先だし。



私は首を捻りながらも、サファイアブルーのお財布を手に秘書室をあとにした。



















ピーク時の社員食堂は、とぐろを巻いた行列のお尻が、どこか分からないほど混み合っている。

すみません、とぶつかる肩に謝りながら中を進んだ。

とてもじゃないけど、先についてるはずの先輩を見つけられない。
探してる間にランチタイム終わっちゃうな…仕方ない、一人で食べて戻って、後で謝まろう。
だけど、席見つかるかな。汗





諦めて、行列のお尻…のはずの男の人の後ろに並んだところで、「十和!」と名前を呼ばれた。
振り返れば、まさにいま「食べ終わりました」モード全開の眞子と、後輩の女の子たち。


「ひとりー?!」

混み合う社員食堂の騒めきを潜り抜ける眞子の声に、ウンウンと頷く。


「ここ、おいでー!」

助かった!和かに会釈をして席を立つ、眞子の後輩ちゃんたちに会釈を返しながら。難無く席が見つかった今日のラッキーに感謝する。
きつねうどんと梅おろし蕎麦、どちらにするかを安心して迷うことにした。