唇トラップ



透き通った白身魚が、僅かに褐色に濡れて。エリーの唇へと飛び込んでいく様は官能的だった。
咀嚼が窺わせる舌の動き。喉を滑り落ちて行く冷たさ。目が離せない。


食事をする姿に色めくって。

欲望の真髄を突かれたみたいだ。




エ「・・・美味いよ?笑」

『う、うん!!汗』


姿勢のせいで、僅かに見上げられる角度がまた色っぽい。
慌てて私も平目に箸先を伸ばしたけれど、確かに驚くほどの旨味と甘味。それは、私の知る淡白なものとは全く別物だった。



『美味しいー!』


自然に飛び出る感嘆の声。
感激。口の中で、まったりと溶けていく。

見上げれば、向かいのエリーは、すでに小海老のかき揚げに噛み付く。
大きな口で、屑を溢さず、丁寧に。


エリーって、本当によく食べるな。いつも大きな口で豪快なのに、食事の仕方はとても綺麗だ。
育ちの良さというか。生活に親の愛情が滲む人は安心する。
それを厭わず、丁寧に身に纏える人は素敵。好きだな__________


__________好き?!?!汗




『かき揚げ、私も頂戴!!汗』


懲りずに顔を出す自分勝手な感情に。
焦って箸先を刺したら、かき揚げは物の見事に崩れてしまった。



『わ〜、ごめん・・・。』

エ「全然。こっち食いなよ。」


そんな、と断る前に。
エリーは私の崩した一方を頬張った。

綺麗なままの一つを、有田焼の小皿に残して。




しみじみ。
エリーの優しさが、身に沁みる。



エ「疲れた?なんか目に見えてテンション落ちてるな。」

『いや、別に・・・。』


私なんかより。
エリーの方が、ずっと疲れて。ずっとずっと、テンション落ちてるはずなのに。



エ「まだまだ頼んでるから。熱いうちに食おう。」


何か言い合う様子の眞子と柊介から。
大根おろし、というフレーズだけ聞こえた。

エリーは優しいから。
いつもの景色に、いつものように溶け込もうとしてるだけだ。

波立った自分の心は、遠くに隠して。





『ごめんね。』

エ「えっ?」

『今日、巻き込んじゃって。』


紅葉おろしはない!と、柊介の声がした。


『来たくもないところに、巻き込んじゃってごめんね。』


エリーは、少し目を丸くしていたけれど。
すぐに、その目尻を柔らかく下げた。


エ「別に、巻き込まれたなんて思ってないよ。
来たくもないとも思ってない。藤澤がいるのに。」