唇トラップ



対角線上に飛ばす、私への過度な気配りは。
明らかに他のメンバーの邪魔になっていたけれど、柊介はちっとも気にしなかった。


柊「ほら、十和、これも食べてごらん。」

『う、うん・・・。』

柊「蟹もシャブシャブしてあげる。この加減が難しいからね。」


中庭に面した大きな窓際から、私と八坂さんと廣井さんの並び。
その向かいに、同じ流れでエリーと眞子と柊介の並び。
一番遠いはずの柊介に、私は集中砲火を受ける。度々視界を横切る柊介の腕に、眞子は何度か舌打ちを打って。



柊「はい、一番美味しそうな足のところ。」

『ありがと・・・けど、もう自分でできるから。汗』



遠慮という、断り文句を。柊介は、嬉々として完全無視をする。

八坂さんと廣井さんは、すっかり仕事の話に入り込んでしまったようで。
二人の視線を気にしなくてよくなった眞子は、ついに堪忍袋の緒を切った。



眞「・・・あ〜〜〜っ、もう!怒
清宮さん、いい加減にしてくれません?目の前をチョロチョロチョロチョロ、目障りなんですけど!!」

柊「めっ、めざっ、汗」

眞「なんなの?十和のこと赤ちゃんだとでも思ってるんですか?キモい。赤ちゃんプレイなら他所でしてよ。」



止めなきゃ、と。
伸ばしかけた姿勢は、思わぬ隠語に陥落した。


『・・・ぶっ//笑』


吹き出す私を、衝撃的に非難の目で追う柊介。
裏切られたようなその表情が、また笑いを誘って。



眞「大体、十和にばっかり美味しいところあげてズルくないですか?
ほらっ、私もそっちの鍋には手が届かないんですから!私の分もシャブシャブしてくださいよ。」

柊「俺は別に、赤ちゃんプレ、」

眞「んなことどうでもいいから早く!!怒」



慌てて、置いたばかりの菜箸を取り上げる。その横で、眞子の「ちゃんと大きいのにしてよ」というゲキが飛ぶ。

蟹への愛なら、私なんかより眞子の方がずっと上級。
湯にくぐらせた後は、ネイルをした眞子の代わりに身まで剥かせられる柊介に同情しながらも。

やっと、解放された・・・。汗
安堵で背もたれに背をついたら、醤油差しに手を伸ばすエリーと目が合った。




『あっ、取ろうか?』


首を振って、そのまま指先がガラスの小瓶に触れる。
器用に小皿へと注ぎ足す仕草に、何となく見惚れて。額にかかる前髪。頬に影を落とす、睫毛の先。
エリーの所作には、音の無い色気。


エ「いる?」

『いっ、いいっ、大丈夫!』


見惚れた不埒を見透かされたようで。
大袈裟に振る両手の後ろに、跳ねた心を隠した。