一拍、間を置いて。
八坂さんの気配が言葉を返そうと動いた瞬間、スコーンと音を立てて引き戸が開いた。
眞「__________って、ええ?!?!?!」
恍惚の表情で首だけ向けた眞子が、夢から覚めて仰け反った。
その隣、同じ方角を確認したエリーも目を見開いたのが見えた。
えっ?今度はなに?
同じく、扉側を確認した私は__________
予期せぬ展開に
口を開けて惚ける。
柊「お待たせ。」
廣「や・・・多分、誰も待ってはいない。」
キメキメのサングラス姿で現れた柊介の後ろ、申し訳無さそうに顔を出す廣井さん。
眞子が背筋を丸めたのが、視界の端を過ぎった。
『にゃっ、にゃんで?!柊介と廣井たんがなんでここにっ、・・・』
柊「あっは。笑
十和子可愛いなぁ、そんなに驚いた?」
柊介は、噛みまくる私を愛しげに見つめたと思ったら。瞬時に顔色を変え、「席を代われ。」と八坂さんに言い放った。
廣「すまん、八坂・・・やはり止められなかった。」
八「大丈夫です。想定の範囲内ですから。」
八坂さんはこの個室内でただ一人。
顔色一つ変えずに廣井さんへ頷くと、「十和子たんの隣は代われない。」と柊介へ返した。
瞬時に戦闘モードにスイッチした柊介を、今度はエリーが窘める。
エ「ほら、柊介たん。こちらが空いてますのでどうぞ。」
眞「・・・ぶっ。笑
みんな、十和の真似してウケるんだけど。はいはい清宮たん、エリーたんのお隣が空いてますからね。」
エリーに噛み付こうとした柊介も。眞子にまで椅子を引かれて呼ばれれば、流石に従わざるを得なかったようで。
ムウっと唇をへの字に曲げて、渋々呼ばれる通りに歩みだした。それに続こうとする廣井さんを、眞子は「廣井さんは八坂さんの隣!」とすかさず制止して。
廣井さんは、返事をしないまま八坂さんの隣へ腰掛けた。
4つのドリンクを運んで来た仲居さんに、生を2つ追加する。
すでに落ち着きを取り戻した様子のエリーの前で、私はまだ飲み込めない。
『えっ、ちょっと待って、まだ分からない!汗
なんで柊介と廣井さんがここに?』
柊「今夜は取引先と打ち合わせがあってね。たまたま、会場がここ響月だったんだ。」
冷めた目で追加の生を采配するエリーに、廣井さんが「これは本当。」と耳打つ。
柊「思いの外、早く切り上げられたから。廣井さんが、こっちに少し顔出さないかって。」
廣「俺かよ!」
柊「俺は不粋だからやめようと言ったんだけど・・・廣井さんが聞かなくてね。」
廣「まんま逆だろ!!」
半分以上本気で、鋭利なツッコミを繰り出す廣井さんに。
柊「よし、飲み物も揃ったな。」
嬉々とした柊介は馬耳東風。
白いポワポワを携えて猛ダッシュしていく背中が蘇った。
あの猛ダッシュには、こういう狙いがあったのか。
いつの間にか解放された右手で、シャンディガフのグラスを掲げる。
6つに重なるグラスの透明な音。その隙間から、エリーを盗み見た。
口元だけで微笑んだその表情には、明らかな疲れが浮かんでいて。
胸が重く下がる。
無理やり、連れて来られて。その上目の前で、八坂さんに手を握られる私を見せつけられて。
流石に呆れただろうな。
それに比べて、八坂さんはいまどんな顔をしているんだろう。
エリーを巻き込んでまで開催したこの場に。柊介と廣井さんが飛び込んで来て。
“想定の範囲内”なんて言ったってことは、少しは予想していたのかな。
この人はいつも。
私の何歩も先を知っている。
もう一度、眞子の話に目尻を寄せるエリーを見て。
だけど、どうしても八坂さんの方は振り向けなくて。
私はもう一度、シャンディガフに唇を寄せた。



