唇トラップ



だから何が!
まさか、「この重ねた手が」なんて言うんじゃないでしょうね?!汗

もうこれ以上のヤヤコシヤは勘弁、



八「この水、俺の。」


__________!!


『ごっ、ごめんなさい!!!』


慌てて、手を引っ込めようとしたら。
瞬間、重ねられた手に力が加わって私は右手を引き抜けない。



眞「ちょっとー。あんたわざと八坂さんの水飲んだんでしょー。間接キス狙ったね?」

『んなわけないでしょっ!汗』


眞子の白々しい揶揄いに首を振りながらも。
必死で抜こうとする右手は、ビクともしない。


エ「あと、お冷のお代わりをお願いできますか?」


エリーが仲居さんの背中に付け足した。微笑んで出て行く仲居さんと裏腹に。
捕らえられた右手は、未だ解放されないまま。


グッ、と。
もう一度力を込めて抜こうとすれば、あからさまに離されない。

テーブルの上、相変わらず重なったままの八坂さんの左手と私の右手。
やばい。仲居さんの出て行った微妙な間で、沈黙に焦る。


眞子からもエリーからも、凝視を集めて。
右手が燃えてる。


揶揄いなら度が過ぎてる。

エリーの前で、本当にこんなことやめてほし__________







エ「八坂さん、水ならもう頼みましたよ。」



水を打ったように、エリーの一言が響いた。

顔を上げれば、ゆっくりとメニューを畳む向こうで。ちっとも温かくはない、エリーの瞳。
その温度から、言葉に込められた棘が浮き上がる。



八「そう。ありがとう。」



それなのに。
八坂さんは、それでもなお重ねた手を剥がさない。

いい加減にしてくださいよ。
私もそう言おうと思って、見上げた斜め顔は。

意外にも、静かな瞳でエリーを見据えていた。



エ「もう間も無く来ますから。」

八「ああ。」

エ「俺のでよければ、まだ手をつけてませんけど。」

八「いや、要らない。」



相変わらず、指先で私の指先を弄ぶ八坂さんと。
そんな彼から目を離さないエリー。


なっ、なにっ、なにこの展開は!!汗
突如始まった、表面的には静かな牽制し合いに。

浮かれていいのやら、たじろいでいいのやら、行き場を無くして私は固まる。




エ「・・・手を離してください。」

八「なんで。」

エ「嫌だからですよ。」





眞子!こんな時は、スーパー助け舟の眞子!汗

縋るような視線を飛ばした先には、鼻の穴を膨らませて頬を染める親友。
完全に、トキメキにまみれた視聴者と化して。台詞の度に、エリーと八坂さんの顔を交互している。



八「嫌なの?」


おかげで、わざとらしく覗き込んでくる八坂さんにも一人で太刀打ちしないといけない。


嫌っていうか。逃げ出したいくらい、この状況は、辛い。
それなのに首を肯定に振れないのは。

八坂さんに、違和感を感じているから。


こんなの彼らしくない。二人でいる時、こんな分かりやすいことはしない。

そう、何かを煽るような。
その対象はおそらく、私ではなくて。

_______________エリー。




エ「俺が嫌です。だから、手を離してください。」



言った。
エリーが、私の言葉を待たずに、ただはっきりと。

眞子が、ヒッと息を飲む音が聞こえた。