唇トラップ



価格表示のないお品書きを渡されて。

宴の方向性を一人で決められる人なんているんだろうか?



目線だけで八坂さんから差し出されたお品書きには、食材の出身地が並ぶ代わりに金額の表示がなかった。

どの食材も血統書付き。
目がチカチカする。これ全部、相当高いに決まってる!!汗



相変わらず、意外な盛り上がりを見せている三人を尻目に。
私は一人、狼狽える。

ちょっと待って、ここのお会計ってどうなるの?
私はご馳走してもらえるとして。(この前の御礼っぽいこと言ってたし。)

エリーも、強制召喚だから奢り?だけどエリーなら意地でも自分で出しそうだな。
じゃあ眞子は?勝手に飛び入り参加して来たテイで、眞子は自腹切らされる?

えっ、けど八坂さんお金持ちだよね?
眞子だけ払えとか、そんなケチなこと言うかな。

しかし、ここは相当な料亭だよ?好きなように頼んだら、一体一人幾らになっちゃうんだろう・・・



グルグルグルグル、止まらない。

頭から湯気が出るほど熟考していた私は、「決めた?」という八坂さんの声に。


『ぼ、ボタン海老と白子のお吸物・・・。』


消え入りそうな声を振り絞るのがやっとだった。


眞「えっ、それシメじゃない?もっとガッツリしたものないの?」


眞子のツッこみに、更にじわっと汗が滲む。
馬鹿者め!このメニューには代金が書いてないんだよ!涙


八「腹減ってねぇの?」


首を振る。
違うわ!減ってるわ!!汗
こんなところで何を頼めばいいのか、分からないだけだわ!!

唇を噛みながら、もう一度首を振ると。



八「・・・じゃあ、それと。」


八坂さんが、柔らかく私の手からメニューを抜き取って。

当たり前にエリーに差し出した。
エリーもまた、それを躊躇いなく受け取って。


エ「大丈夫。それ、めちゃくちゃ美味いから。」


冷や汗を垂らす私にサラリと微笑むと、開いたメニューを一瞥して。
さり気ない所作で、呼び出しのベルを押した。







『ここ・・・エリーも来たことあるの?』

エ「接待で何度かね。」

『おっ、お高くない?』


眞子に何か答える八坂さんに聞こえないように、身を乗り出して耳打ちする。


エ「うーん。安くはない、けど。相応の相手と来るなら、妥当だと思うよ。」




“相応の相手”

八坂さんに対する自分を暗示されたようで、反応しかけた胸を慌てて抑えた。


頬が熱い。
ていうか、今更だけどエリーと気まずい。
同席する形になったけど、八坂さんと二人で出掛ける予定だったことを知られてしまった。

どう思ったんだろう?嫌な気持ちになったり、幻滅したりしたかな・・・
手持ち無沙汰に、空にしてしまったお冷に再度唇を付ける。



『お店の方おそ、』

エ「妬いてるよ?」