唇トラップ




よくドラマで、政治家たちの談合会議が行われているような。

八坂さんに連れられてやって来たのは、そんなお忍び感満載の高級料亭だった。



一歩敷地を出れば、騒がしい麻布の大通りだとは思えない。
森かと見紛うほどの樹木に、中庭だと言えないレベルの庭園。
艶めかしい仲居さんが、八坂さんに「お待ちしておりました。」と微笑んだ時。
何故か私は喉が鳴って、赤面した。



ここ、きっとスニーカーで来る場所じゃなかった。
今朝、出掛けにギリギリまで悩んだCHANELのバレエシューズ。グラウンドで汚れるのが怖くて、夜の予定があるのに結局スニーカーにしてしまったけれど。

場違い感、半端ない・・・。汗



「お席数の変更だけで承ってますけど。」

八「大丈夫です。」



斜め上の完璧モンスターを見上げる。
文句なしに、格好良い。

嗚呼。
どうしてバレエシューズにしなかったんだろう?涙




見れば、急きょ招集されたエリーだって。
ミリタリー調ではあるけれどちゃんとジャケットを羽織っているし。

眞子だって、真知子スタイルを着替えればダイアンのワンピースだった。



___________そう、眞子。

タクシーを捕まえようと通りに出たところで、ダイアンのラップワンピースに高いヒールを合わせた美女が先にタクシー待ちをしていた。

真知子スタイルとのあまりの落差に、私は眞子だと分からなくて。
エリーの「あ、須藤。」という一言で、『ぬっ!?』という奇声を発し。

おかげで眞子は振り返り、私×八坂さん×エリーの並びに目を剥いて。
何も言ってないのに、「ご一緒します♡!!」と飛び跳ねた。









左斜め前の眞子。
綺麗に縁取られたフレンチネイルの指先で、お酒のメニューを指しながら。向かいの八坂さんに話し掛ける。
頬杖をついたまま応えない八坂さんの代わりに、エリーが何か返す。眞子は、大袈裟に頷いた。

眞子のおかげで、さっきから会話が途切れない。
三人で食事なんて、どうなることかと思ったけど。


眞「十和は?魔王ロックでいい?」

エ「えっ、そんなの飲めたっけ?」

眞「飲める飲める。十和に飲めない酒はないから。」

八「まじで?お前凄いな。」

『ちょっと!汗
魔王が好きなのは眞子でしょう?!私飲んだ事ないよ?!』

眞「あたしは何にしよーかなー。えーっと、一番可愛いやつ何かな。あっ、ティフィンミルクで♡」

『眞子っ!汗』



エリーが笑った。八坂さんも、頬杖の下で口元を緩めたような気がした。

屈託無く、そこに居てくれる有り難さ。
押し掛けてきてくれた親友に、こっそり感謝していた。