心なしか、エリーの表情がまた一段強張った気がした。
なんで?
なんなの?“麻布の響月”って、何?
息を潜めながら、そっと柊介を見上げると。
あれ?!いない!!汗
焦って振り返ると、廣井さんと並び離れて行く背中が見えた。
アニメの世界で、小さな子供が走ったら足元に浮かぶ白いポワポワ。
あんなポワポワが、柊介の足元に浮かんで見えた。
そんな、“スタコラサッサ”という表現がぴったりな猛ダッシュだった。
絶句。なんだあれ・・・。
ていうか、廣井さんもこんな状況で私一人置いていかないでよっ!涙
恐る恐る、掴めないやり取りを繰り返す二人に向き直る。
エ「関係ないと思いますけど。」
八「関係なくねぇよ。」
どうしよう。未だ、二人の会話が全く見えない。
いや・・・もはや。
この二人の方こそ、私のこと見えてないんじゃない?
・・・逃げて、みる?
そろりと、スタンスミスのつま先を持ち上げる。
エ「彼処はそんな簡単に席を増やしたり出来ませんよ。」
八「出来る。というか、させる。」
増やさなくていいよ、私はこのまま消えるか、
八「お前が来ないと、十和子は来ない。」
______________思わず、出て来た名前に足止めをくらう。
私?私のこと?
八「だから誘ってる。他意はないよ。」
思わず、振り返ったのは。
上からなのか下手なのか、よく分からない誘い文句を繰り出す完璧モンスターではなくて。
そんなよく分からぬ文句で口説かれる、気の毒なエリー。
だけど同時に。
モンスターに見抜かれた心の内が、ひどく跳ねる。
私に断らせないように、エリーまで巻き添いにするなんてアリ?
狡猾というか、強引というか。
なのに心は
甘く騒ぐ。
気がつけば、エリーと視線が合っていた。
慌てて意識を引き戻す。
やばい。いつから、目が合ってた?
私いま、どんな顔してた?
内心で焦る私をよそに、エリーは静かに溜息を吐いて。
八坂さんに視線を戻す。
エ「座敷は無理です。足を折れません。」
八「分かってるよ。」
結局、終始蚊帳の外だった私を。
八「行くぞ。」
一連の流れなどなかったかのように、涼しい顔で振り返る。
高すぎる鼻もクールな瞳も。憎らしいほどに、整い切った振り向き顔。
“問い”ではなく、あくまでも“指示”。ここで駆け出したら、犬みたい。
分かってるのに、心は疼く。
返事を待たずに、歩き出した背中を追い掛けた。
足取りが軽いのは、浮かれているからなんかじゃなくって。
スニーカーと、お腹が空いているせいだと言い聞かせて。
だけど、お腹がすいているから、足取りが軽いなんて。
やっぱり私、犬みたいだ。



