唇トラップ



なんて酷い言い様を!汗
メソメソしてないし!しかも“駆け回って”って犬か!!汗

いけしゃあしゃあとエリーを非難する姿に驚いて、浮かんだ涙も引っ込んだ。

かく言う、的外れの非難を一身に浴びたエリーは。


エ「・・・ぶっ。笑」


ポカンと口を開けた後。我に返って吹き出した。


エ「出来ますよ?出来ますけど。笑
本戦のために温存させてください。今日は勘弁って事で。」



エリー、笑った・・・
病院から戻ってから、微笑みは見せてくれたけど、このいつもの太陽みたいな笑顔は見られなくて。

いつものエリーだ。

なんだかひどく。
胸が柔らかく撫で落ちる。




柊「フン。」


柊介は、腕を組んだままつまらなそうに鼻を鳴らしたけれど。
それ以上に、エリーを責めることはしなかった。



その横顔は、夕陽を反射してうまく見えない。
だけど、夕陽の色のせいか温かくも見えて。

もしかして。
私のために、わざとエリーを笑わせようと?
エリーが笑えば、私が安心すると。


もしかして__________








廣「江里、送ってく。今日は車じゃないだろ?」

柊「家に着いたら寸暇を惜しんで即刻降りろ。俺と廣井さんは、この後大事な接待が有るんだよ。」


またしても悪態を吐く柊介を無視して。


エ「藤澤は?」


エリーはベンチに腰掛けたまま、真っ直ぐに私を見上げる。


エ「藤澤、この後は?」

『えっと・・・』



この後は?と聞かれて。
答えにくいのは、八坂さんと出掛けるからじゃない。

正直、そんな気分ではなくなっていた。
私を庇って怪我をしたエリーを置いて、他の人と出掛けるなんてとんでもない。

昨日の浮かれたバスタイムが嘘みたいに。





『えっと、ね。』

口ごもる私から、エリーは目を逸らさない。


『この後は、出掛けようと思ってたんだけど。』

エ「須藤と?」

『あ・・・ううん。だけどね、』







ザァッ、と。

強く吹いた夕方の風に、知った香りが舞った。



私の躊躇いを、彼方に果てなく

奪い去るように。



香りが示す、持ち主に

振り返らずとも身が竦む。