唇トラップ



活躍してくれたエリーには、とびっきり冷えた一本をあげたい!
そう思って開いたクーラーボックスには、小さなオレンジジュースのパックが転がっているだけだった。


『あれ・・・売り切れちゃったかな。冷えてなくてもいい?』

「勿論。」


階段状になった土手を上がったところに、積み重なった段ボールがある。
あの中に、買って来たままの水が詰まっていて。あれをそのまま持って降りて、エリーに一本渡して。残りはクーラーボックスに詰めてしまおう!


駆け上がる私を、意図に気づいたエリーの声が追う。



「もしかして、それ持って降りるの?」

『うん!』

「待って、俺が持つよ。」


大丈夫!と背中で応えて。手をかけたところで、予想より少し重たそうだと気付く。
力を入れ直して、腰から引き上げたところで_____________





_____________そのまま、体ごと後ろに傾いた。





「藤澤!」




視界が後転していく前に、最後に聞いたのはエリーの声。




“墜ちる”

そう分かって、咄嗟に顎を引いて身構えた。


一瞬にして永遠の無重力。縋るように、抱えた段ボールをギュッと抱き締める。


痛いだろうな。頭、打つな。
エリーに任せればよかった。
投げ出されながら、呑気に今更な後悔が過って。

重力に引き戻される体が、スピードもそのままに落ち込んだのは。






『・・・!』




確かに、腰骨は痛かった。
だけど頭は打たなかった。

予想した固さもなかった。
あるのは、柔らかさに衝突した感覚。




恐る恐る、背中を振り返る。
固い地面があるはずだった。コンクリートと芝生の、狭い隙間が。


だけど、そこにあったのは。




『うそ・・・』







私を前面に受け止めて、その華奢な背中を地面に打ち付けて。

衝撃に顔を歪めた、エリーの姿だった。