唇トラップ



さっきからこうやって、私の周りに人影を察知しては。
試合を離れて一目散に戻って来る。


ドリンクのお代わりや、替えのテーピング。
れっきとした用があって私に話しかける海営メンバーを、全員ナンパ扱いして蹴散らす。

さっきなんて、私からドリンクを受け取る新人の男の子に、「覚えとけよ」なんて囁くから。
可哀想に、彼はそれをそのまま落下させてボトルは破裂してしまった。



見た時には、ちゃんと試合に集中している風なのに。
柊介には、頭の裏にも目があるんじゃないかと思う。





柊「海営、全然使えないんですけど。うちの江里で何とかもってるようなものですよ。」


いつもはエリーを邪魔者扱いする癖に。
こんな時だけ、“うちの”と強調して。


廣「本当に?おかしいな、八坂も経験者のはずなんだけど・・・。」

『八坂さん、ゴールキメたじゃない!』


思わず、虚偽の報告に反論すると。


柊「見てなかった。」


シラっと即答されたけれど。

見てなかったなんてはず、ない!汗
あの時、腰のあたりで小さくガッツポーズする柊介を、私はこの目でちゃんと見た!




廣「江里ほどじゃないけど、八坂もそこそこの優績者だって聞いてるぞ?
あいつは大学までサッカー続けてたらしいし。」


力を込めて頷く。
確かに、八坂さんは素人の私から見ても上級者だと分かった。
特に、エリーとの絶妙なパス回しは息がぴったり。秀逸だった。

悔しいけれど。
完璧モンスターは、蹴鞠も完璧にこなすらしい。



柊「そうですか、なら八坂も戦力外通告だ。」

『噛み合ってないっ!汗』


メゲずに口を挟むと。
フッと降りてきた柊介の視線が、私の肩あたりを捉えて。

大きく、見開く。



柊「なに?そのジャージ。」

『えっ?・・・あっ、これ?』

柊「男物?朝はそんなの持ってなかったよな?」



しまった。八坂さんのジャージ、肩がけしたままだった。
冷えていく私の喉と、比例する柊介の瞳の熱さ。



柊「見せてごらん。」

『やっ、そのっ、大丈夫!』

柊「十和、見せて。」



取り上げられる!汗
後ずさった時、第1戦終了を告げる笛の音が聞こえた。

終わったね、と独り言ち。ソソクサと柊介の隣を離れて。
追ってくる声から逃げるように、わらわらと集まる選手の渦の中に飛び込んだ。


ま、まずかった・・・。
ここで八坂さんのジャージを柊介に取り上げられるなんて、話がややこしくなりすぎる。

どっちがどっちに怒るんだろう?カオス・・・。汗








「あっ、藤澤、水ある?」

すれ違い様になろうとしたエリーに呼び止められ、我に返って。

『あ、う、うん!あるよ、あるある。』