唇トラップ




眞子が、カメラマン魂を見せる。
芝生上に這い蹲りながら、八坂さんの後ろ姿にシャッターを切る。



『ねぇ。さっきから同じ人ばっかり撮ってない?』

「仕方ないよ、活躍してるんだもん。」


もう、どんな体勢で撮ってるのよ。笑
プリッと上がったお尻に、思わず吹き出すと。


「お疲れ〜。どれどれ、うちの野郎共はちゃんとやってる?」

『廣井さん!お疲れさまです!』


廣井さんが、オレンジ色のジャージに身を包んで。差し入れと思われるドリンク袋を片手に、右手を上げる。

言わないけれど。
なんだか、ダボっとしたジャージの感じと廣井さんの童顔はやけにマッチして。ディズニーランドのティガーの着ぐるみのように見えた。



『出場しないんですね?さっき柊介から聞きました。』

廣「流石に、もうアラフォーですから。辞退する前に、清宮から戦力外通告してもらえて助かったよ。」



せ、戦力外通告?!?!
なんて失礼なことを・・・。汗
試合開始後、ちっともベンチに戻って来ない柊介に非難の目を投げる。



廣「おーおー。清宮のやつ、熱くなっちゃってるね。」


遠目から見ても分かるほど、声を張り上げている様子の柊介。
おそらく、あれは「下がれ」と叫んでいる。

さっき後ろを通った時、凄味の効いた声量に驚いた。




『熱くなってるの、柊介だけじゃないんです。みんな真剣でびっくりしてます。
眞子だって、』


「SUN!」取材班のプロ根性を炸裂して。
地に這い蹲ってベストショットをおさめようとする眞子を振り返ると、忽然とそこにはいなかった。


『あれ?眞子?あれ??』

廣「・・・須藤が来てるのか?部外者は練習試合には来れないはずだろう?」

『あ、はい。そうなんですけど、眞子は社内紙の取材班だそうで。
さっきまでここで、写真撮ってたんですけど・・・。眞子〜?』

廣「いい、いい!また後で挨拶しとくよ。」



強めに制止されて、親友を探す声を止めた。
屈んで、クーラーボックスの蓋を開ける廣井さんに並ぶ。


『眞子、凄いんですよ?私とエリーじゃ、絶対海営と飲み会なんて出来なそうだから。自らキッカケを掴むために取材班に名乗り出たんですって。』


笑うと、思ったのに。


廣「へぇ。」


顔を上げず、黙々とドリンクをクーラー内に並べる。
売り切れ寸前だったアクエリアスが、見る間に満員御礼になった。


『けど、来たからにはいい写真をおさめて、全社の女子のハートを鷲掴みにするって。
撮影すごくがんばってるんです。眞子らしいですよね。』

廣「うん。」

『廣井さんも、協力してあげてくださいね?』



聞こえなかったのか、返事もせぬまま立ち上がって、大きく伸びをして。

「久々外に出ると、気持ちいいな〜。」

そう空を仰ぐ横顔は、ちっとも晴れ晴れして無くて。瞳の奥には、何か考え込んでいそうな思案の気配。


この前二人で飲んだ時から気になってた。
廣井さん、悩み事でもあるのかな__________








柊「なんだ、廣井さんか。」

廣「なんだって何だよ!笑」


喉まで出かかった、お尋ねは。
つまらなそうに現れた柊介の声で掻き消された。