唇トラップ



会議室の後片付けを終えて。

何と無く気分が晴れないまま、降りてきたエレベーターに乗り込む。



ていうか私。
何様なんだろう、一体。
エリーの事、はっきり答えを出せてないくせして。

いいように、宙ぶらりんなままで。
そのくせ、女性の影を感じれば落ちてる。




そんな資格ないよ。今のまま、じゃ。



モヤモヤがパンク寸前。大きく溜息をついたら、ますます肩を重く感じた。

こういう時はヨガに行きたい!
今週、久しぶりに・・・ああ、だめだ。
サッカーの練習試合、観に行くって言っちゃったんだ。










そんな取り留めのないことを考えながら。ボウっと閉じて行くドアを見つめていたけれど。

パタパタと走って来る足音が聞こえた気がして、反射的に「開」のボタンを押した。





「__________っつ、すいません__________おっ、藤澤!」

『廣井さん!お疲れさまです。』



って事は・・・

瞬時に次に現れる人影を予想して、身構えたけれど。



『・・・!』



付け焼き刃な予想なんて、簡単に超える。

目が合った瞬間、“負けた”と思う。


一週間ぶりに見る八坂さんは、少し上がった息も計算なのかと見紛うほど。
圧倒的なオーラで、スマートに乗り込んで来た。





「悪い。」

『あっ、いえ。』


私が“開”ボタンを離すのと入れ違いに。隣に並んだ八坂さんが、“閉”を押す。

どうやら、なかなかに急いでいるらしい。






そういえば、あのチョコレートを貰ってから初めて会うかも。
ていうか、あのお泊まりの日から。あのキスの日から____________


喉がカッと熱を持った。
ダメ!!!いまはあのキスを思い出すな!!汗


言い聞かせても、後の祭りで。
八坂さん側の左半身が痺れたように熱い。




前に立つ廣井さんを盗み見る。
背中で。全身全霊の力を込めて、存在感を消そうと努めているのが分かった。


かく言う、八坂さんは。

そんな兄貴の気遣いもつゆ知らず。
涼しい顔で、手帳を覗いている。





・・・どうしよう。
チョコレートの御礼だけでも、言ってみようかな。



『あの・・・ヴィタメール。ありがとうございました。すごく美味しかったです。』

「そう。
廣井さん、やっぱり間に合いません。先に出てください。報告をあげて、後から追いかけます。」