じゃあ、またあとでね。
そう言って切ろうとした電話の向こうで、笑い声が漏れた。
「なんだそれ。」
恥ずかしさが募る。ほんと、なんだそれだよね。
仕事中に、エリー相手に、何やってるんだか。
『・・・だよね。じゃあ終わったら連絡す、』
「可愛いな。」
ハッキリと、私の言葉を遮る台詞は。
「そんなこと言われたら、切りたくなくなる。」
確かな甘さを含んで。
『え、エリー・・・。今、どこにいるの?』
嬉しいけど。
不意打ちの“可愛い”に、心臓が煩いけど。
「普通に社内だよ?」
『そうなの?!』
社内ってことは。柊介もいる、あの営一のフロアに?!汗
そんなところで“可愛い”なんて言って大丈夫なのかな・・・
「柊介さんならいないから、大丈夫だよ。別にいても構わないけど。」
唇を噛む。今日もエリーの先回りには敵わない。
「藤澤、飲みに行こうよ。」
『のみ・・・?』
「うん、二人で。」
飲みに誘われるって、こんな色っぽい響きだったっけ?
ファイルを左クリックする音が、やけに甘ったるく響いた。
グイグイ推される、この感じ。
相手がエリーだという事が、感覚に余計な拍車をかける。
「__________今週末、」
そこで何か、電話口の向こうに別の気配を感じた。
ちょっと待って、と。遠くなったエリーの声で何やら会話が聞こえて。
よく分からないけれど、誰かと話してる様子。
“木崎さんはいいから”
何故かハッキリ、その言葉だけが拾えた。
木崎さん。
ああ、木崎夏恋さん_______________前に、エリーの内線をピックしてくれた子だよね?
高鳴っていた胸が一転。グレーな靄を広げる。
もう余計なことは拾わないように、意識的に電話口から気を遠ざけた。
じゃあよろしく、と。
切れた電話を戻しても、なかなか気分を切り替えられなかった。
飲みに誘われたことを忘れさせるほど、“木崎さん”というワードが引っかかっていた。
やだな。何、この気分。
別に、エリーは私のものじゃないのに。
感じた木崎さんの存在が頭から離れない。
ルピシアのホワイトサングリアはすっかり冷めて。
乾いた喉には、柑橘の苦味だけが引っかかる。
厚かましさと図々しさを混ぜ込んだこの感情は__________
__________独占欲、だ。



