唇トラップ


#眞子side


下衆って言うなよ、と。
伏せた瞳で笑うエリーの睫毛は、私よりずっと長い。



「好きじゃなくても寝れるけど、キスはしないかな。」




廣井さんに重ねようなんて。うかうか思うんじゃなかった。

飾らない直球な意見は。
豪速球となって、私の心に突き刺さった。




『・・・やばい。それすっごい分かる。』

「まじで?須藤、やっぱ前世は男だよ。」



キスには多分。
本能で嗅ぎ分ける、何かがある。


“行為”というただの枠組みを超えて。
身体じゃなくて、心を満杯にする相手。


そうならない相手なら

最初っから、キスなんていらない。





『だからか、人間しかキスしないのは!!』

「そうなの?へぇー。」



覚醒した私の隣で、エリーは聞いているのかいないのか。
顔もあげずに、銀のピックでオリーブを刺す。


なんでもないことのように振る舞う、エリーのこれが。
最大限の優しさだと、私はもう知っている。






キスで満たされるのなんて、感情くらい。

あれ?

じゃあ私、あの時感情が揺れた?

もしかして。



廣井さんのこと好き__________





『きも!!ないないないない!!!汗』



やばい。ますますアタマ混乱してきた!!汗

邪念を吹き飛ばそうと、ブンブン首を振っていたら。
ザンバラに吹き飛ぶ髪の向こうで、つぎのドリンクを注文するエリーが見えた。




『エリー・・・月曜からよく飲むね。』

「たしかに。言われてみると、金曜からずっと飲んでるな。」

『えっ、エリーも金曜は飲み会だったの?!じゃあ合流すればよかったね!』



あの夜、三人で飲んでいたなら。
あんな事にはならなかったはず。


「合流もなにも。金曜の廣井さんの接待、俺の取引先だから。
須藤が廣井さんに会ったの、俺たちと廣井さんが別れてすぐじゃないかな。表参道でしょ?」

『うっそ!』



直前までエリーと一緒にいたなんて!

風化していた部分まで鮮明に思い出されるようで。
妙に胸が焦り出す。



「俺は二次会に付き合ったけど、廣井さんは先に帰ったんだよ。」

『へ、へぇ〜・・・、先に帰るとか許されたんだ?』



珍しいな、あの人が。
後輩だけ置いて、自分だけ逃げたなんて。



「あの人、土曜は人間ドックだったからね。」

『へ、へー・・・へ?』



ホットドッグ。いや違うか。

人間、ドック。

人間ドック?あれ?




「接待のくせに、一滴も飲めなかったんだよ。」





待って待って、まっ__________




「キスした時、すごい酔ってたって?」



クシャリと目尻にシワを寄せて笑う。
エリーのパーフェクトな笑顔が、ライティングを受けて。

妖しく、光る。











“もう十二分に酔ってるんだよ”

“酔っているのが自分だけだと思うなよ”







リフレインする

あの夜の鼓膜の感覚。







「それなら、須藤と会ってからかなり飲んだんだな。」






あまりの眩しさに、目眩がした。



エリーが柔らかく

酔いの勢いの化けの皮を剥がす_______________。