唇トラップ


#眞子side



やっぱり、離れて見ても。



『うん、イイ男♡』

「は?なにそれ。笑」



社用携帯を手に、席を立ったエリーをずっと見ていた。
恐らく営業先の方を相手に、何やら真剣な顔で話し込んでいると思ったら。
次第に表情が柔らかくなって、いつもの王子様スマイルを惜しみなく溢して。
目に見えて、話が上手く進んだんだと分かった。

エリーとすれ違いに入店してくる女子たち。皆、耳打ちしながらエリーを振り返って見ていた。


其処彼処から盗み見る視線も何のその。
店内を颯爽と私の元へ戻って来た姿に、優越感がハンパない。




『ねぇ、なんで十和子なの?』

「俺も聞きたい。何で柊介さんなの?って。」



ビールのグラスを煽った喉元が、グッと上下した。

答えになってないようで、なってる。
何処がどういいとか、そんな次元乗り越えて。

エリーにはとっくに、十和子しかいない模様。




「で?さっきの話に戻そう。」

『ああ?う、うん・・・。汗』




金曜日の“不祥事”について、打ち明けたかったはずなのに。
ダラダラと前提ばかり話して、なかなか本題に辿り着けない。



『でね、シリウスを出て、もう一軒行くことにしたわけよ。』

「へぇ。どこ行ったの?」

『ま、適当にウチの近くのワインバーだったんだけど。私、結構酔っちゃってさ。』

「ああ、駅前の?ビルの何階かの。」

『・・・うーん、そうね。そうそう。』




マズイ。忘れてたけど、確かにあそこのワインバーには、十和子とエリーとも訪れた事がある。

こっぱずかしい。リアルに想像されそうだな。




「で?」

『えーと、でね。で、閉店のタイミングでお店を出て。なんやかんや廣井さんがムカついてきて。』

「へぇ。笑」



軽く頷きながら、グラスの中のピスタチオを摘み上げた。
長い指先に、思わず見惚れる。

エリーは、線が細い。
顎先とか手の甲とか、パーツは華奢で狂いが無くって。
なのに、視線とか物腰とか、本質はちゃんとオトコだから。

逆に危うげな色気が伴っている。




「ムカついてきて、それで?喧嘩でもした?」



こうやって、軽く顎先を持ち上げて見下ろされると。
いくら私でも、ドキンとしたり。



『ううん。喧嘩、どころか。』



何でだろう。
なのに、この濡れた唇に触れてみたいとは思わないんだよな。



『あたし、キスしちゃった。』