唇トラップ



ある事とか、事件とか。

気になるであろうオブラートを、引き剥がさずにそのまま受け止めてくれる。
廣井さんの優しさが嬉しい。


正確に言えば、あの誕生日は八坂さんの登場日でもあるんだけれど。
それは、言わないことにした。




「藤澤がそんなに揺れるなんて珍しいな。意外にパッキリした奴なのにね。」

『そうですか?私、こんなに自分は優柔不断だったかなって、自己嫌悪に陥ってる。』

「いや、お前は元はダメなもんはダメ派だろう。
まぁ、相手の立場を尊重し過ぎる節はあるけど。今回もそれで振り回されてんのかもなぁ。」



廣井さんの的確な分析。



『・・・なにそれ。なんか人事部っぽい。』

「ダテに、お前の個人面談を三年も担当してないぞ♪」



長年、私を温かく探して来てくれたんであろう意見に。
心にじんわり、熱が広がる。



「あとは、まぁ仕方ないかなとも思うよ。相手が、あの江里と八坂だろう?すげぇメンバーじゃん。そりゃ優柔不断にもなりますって。」

『分かってくれますー?!涙
そうなんですそうなんで、・・・ええっ?!?!?!』



見事な、ノリツッコミをかましてしまった。

我ながら突如飛び出た声の大きさに驚いて。慌てて声を潜める。




『なっ、なんでエリーと八坂さんだって分かったんですか?』

「当たり?笑」



嗚呼、墓穴!!汗

私の男親友、だなんて言えば。エリーしかいないのは廣井さんには容易だったかな。

だけど、八坂さんのことはなんで??




「江里は言うまでもなく。八坂に関しても、わりと簡単だったぞ♡」



琥珀色を抱えたグラスを手に、得意げな廣井さん。



「で?誰と誰がキスしたって?」

『・・・柊介とエリー、なんていう組み合わせがあり得ると思いますか?』



爆笑する廣井さん。

私は一人、全く笑えない。

ねぇ、なんで八坂さんだと分かったの?!汗

そう言えば、二人でいるところをこれまで何度か目撃されてきたかも。
だけど、たったあれだけで相手が八坂さんだと?





「ほら、一度会議室でお前らが一緒にいたことあったろう。」

『・・ああ、はい。』


鉢合わせた八坂さんから、初めてSOSを受けた日。昼休み返上で、壊れたファイルの復元を手伝った。



『けど、あれは別に変な意味は全くなくて!ただ純粋に仕事を手伝ってただけですよ?』

「分かってる分かってる。笑
問題は、お前が出て行ったその後。」



その後?心当たりのない節に、首を傾げる。

空いたカクテルグラスを指して、同じものでいい?と言う廣井さんの問いに。
無意識にただ、頷いてしまった。




「八坂と藤澤なんて、珍しい組み合わせだなと思ったからさ。聞いたわけよ、“お前ら知り合いだったんだな”って。そしたらあいつ、」







前触れに。

心がフライングする。









そして、呆気なく





世紀のオトコに、囚われる。