よくよく考えれば、柊介との不仲も報告していなかったと。
まずはそこからではないかと覚悟して。
勿体ぶって打ち明ければ、平然と返された。
「ああ、やっぱりな。」
バカラのグラスに浮かんだロックアイスが、軽い音を立てる。
『えっ、なんで!?何が“やっぱり”なんですか?!』
「清宮が結婚するらしいって噂で聞いたんだよ。それなら、相手は藤澤しかいないだろう。
なのにお前は報告してくるどころか、ちっとも浮かれた様子もないし。」
噂・・・廣井さんの耳にも入ってたんだ。
まぁそうだよね、小堺課長も知ってたくらいだもん。
これはリアルに、全社的な噂だ。
改めまして気分が沈む。
「ほら。笑
清宮ネタになると、そんな顔してるし。」
『廣井しゃん・・・。涙』
「泣くな。ここで泣かれたら、俺が泣かせたと思われる。」
斜め前で、グラスを拭いていたバーテンの方と目が合って。
慌てて鼻を啜った。
「話してみ?話したいとこだけでいいから。」
グラスの縁についたリップグロスを。
惑う心に重ねて、指先でそっと拭う。
“ある事”をキッカケに、柊介への信頼が無くなったこと。
これまで重ねてきた時間を疑うほどに、知らなかった姿や葛藤を目の当たりにしたこと。
それは、柊介だけが悪いのではないと。
思わせるほどのものだったこと。
それと同時期に、親友だと思っていたヒトから好意を打ち明けられたこと。
それからの彼は、まるで出会ったばかりの知らない人みたいで。上手に私を揶揄ったり、気後れするほど眩しかったり。
だけど、他に気になる人も現れたこと。
その人はいつも、強引で突然で。
振り回されてばかりなのに、嫌いになれないこと。
「なるほど、要するにモテ期なわけだな。めちゃくちゃ楽しそうやないかい!」
『他人事だと思って!汗
当人はすっごく悩んでるんです。なんかもう、あの日から毎日いろんな事が起こりすぎて、自分で自分に着いていけない・・・。』
「“あの日”?」
『私の誕生日、なんですけど。その・・・柊介との事件が起きたのは、誕生日だったんです。』
「そうか・・・。それはキツかったな。」



