唇トラップ



また良からぬ期待をさせるかと、眞子に打ち明けるのを躊躇っていたけれど。


終業を迎えても、一向に後遺症は快方に向かわない。
限界を感じて、親友にSOSのLINEを放つ。



とわ “今日の夜、空いてる?”

まこ “先約有”



秒速で浮かび上がる返信に、思わず仰け反る。

は、はやっ!汗
なに?携帯見てたってこと?



とわ “そっか〜了解。また、話聞いてね☆”



今度は返信がなく。ただ、未読が既読にすり替わっただけだった。






もう震える気配のないiPhoneを手に、化粧室を後にする。


先約有、か。
月曜から夜の予定なんて、珍しいな。

かく言う私も、飲みたくなってしまったのだけど。そのうえ誰かに打ち明けて、喉の詰まりを取ってしまいたい。


これまでなら、こんな時浮かぶのは迷わずエリーだったのだけど。
今の関係でそんなこと、出来るわけもなく。



はーーー・・・

こんな時、痛感する。

私、友達いないな・・・






「・・・おっと!」

『きゃっ、』


ぼんやり歩いていたら、出会い頭に危うくぶつかる。


『すみませ、』


柔らかく支えてもらった肩を取り戻し、顔を上げれば。




『いた!!!』

廣「なに?!汗」


恐れ多くても。
友達と呼びたい、愛すべき上司。



『廣井さん、今夜空いてます?飲みに行きません?』

「・・・。」


なぜか、恐れ慄いた表情で。
固唾を呑む彼に、構わずまくし立てる。



『私、すっごーく飲みたい気分なんです。ね?いいでしょう?』

「・・・お前ら・・・もしや、グルか?!」


やっと返ってきた反応に、全くの心当たりなし。


『え?何が?』

「そうやって誘い出すのが、お前らの手口か?!」

『・・・意味分かんないです。あのね、いま深刻な悩みがあって。廣井さんに聞いて欲しいんです。』

「・・・悩み?・・・悩みって、なんだよ。」



さすが、人事部出身の兄貴分。
“悩み”というワードで、ピクリと気配が変わった。