#眞子side
要件はたったそれだけだった模様で。
八坂さんは、あっさりと席を立った。
社食を歩いて行くカリスマな長身を、社食中の誰もが盗み見る。
息を潜めて、頬を染めて。
か、か、か、
かっこいい・・・。涙
本来なら、私だって思う存分見つめていたいところだけど。
そこはやっぱり、親友仲間。隣のエリーが気になった。
どうしよう。今の試合って、どっちが勝ったの?
今どんな顔してるのかな。なんて声をかければ・・・。汗
エ「今夜、飲み行く?」
口火を切ったのは、エリーが先だった。
硬直していた体は、思わず跳ね上がる。
『ノミ?!ああ、飲み!!・・・うん、いいねいいね、めちゃくちゃいいね!』
空のコーヒーカップを手に、席を立つエリー。慌てて私も立ち上がる。
見上げる壁時計。許された昼休みの一時間は、間も無くタイムアップだった。
『こういう時は、パーッと飲んで忘れるに限るからさ!今夜はトコトン付き合うよ!』
「いや、違うんだけど。笑」
差し出された左手に、一瞬のギモン。
あ、もしやこれのこと?
握っていた空のコーヒーカップを渡せば。
自分のものと合わせて、屑かごに放ってくれた。
「なんかさっき、話したい事あるって言ってたじゃん。八坂さんがいて、話せなかったろ?」
また、走った違和感。
確かに。確かに、そうなんだけど。私はエリーに廣井さんの話をしたかったのだけど。
そんな事より、なんだ?
さっきも走った、この違和感は??
「もう消化されてんならいいけど。月曜だし、無理して飲み行く必要はないし。」
『いや!ううん!!行きたい。行きます、飲み!』
エレベーターホール。
先に並んでいた若めの女子が、エリーをチラチラ振り返る。
いつものように、これ見よがしにエリーとの距離を縮めてみるけれど。
優越感は違和感に勝らなかった。
『十和子は呼ばなくてもいい?』
「は?」
『まだ十和子に話してない案件なんだよね。飲み、私と二人でもいいかな?』
エリーが乗るはずの、上りのエレベーターが到着する。
「いいに決まってる。」
鼻に皺を寄せて笑う横顔に。
親友でありながら胸が鳴って。
明らかに緊張感を持った女子が乗り込んだエレベーターに、エリーは吸い込まれた。
振り向いた姿に手を振ったけれど、舞い上がった女子に何階かを問われたようで。
閉まり行くドアの向こうで、もう目が合うことはなかった。
私は一人、下りのエレベーターを待つ。
胸の奥に燻るのは、先ほど芽生えた違和感。
なんだろう?これ、なに?
初めて間近で見た八坂さんが格好良すぎで、心がオカシクなった?
八坂蒼甫。
それにしても圧倒的だった。
八坂蒼甫。
社内史上最高の男。容姿も能力も、完璧を兼ね備えた逸材。
八坂そ、
____________思い、当たった。
「蒼甫さん」と呼んだ。
2回目は、「八坂さん」と呼んだ。
八坂さんには、「蒼甫さん」で。
私には、「八坂さん」で。
エリーは
「八坂さん」じゃない
「蒼甫さん」を知っている。



