総務の柳田さんは何位だの、人事の小林さんは何位だの。
好き勝手な妄想話が続く中で。

誰も、王座について予想しないのは。




「八坂さんの連勝記録は、今年も破られそうにないわねぇ・・・♡」



ここ何年も、その王座を受け渡さない人がいるから。
彼が、“社内史上最高の男”と呼ばれる所以の一つ。







『ちなみに、現在何連勝中なんでしょう?』


めいめい妄想に想いを馳せて。桃色のため息を浮かべる先輩方に、今更問うてみる。



「えっと・・・連勝記録でいくと、五連勝中じゃない?一度二位に落ちたものね。」

「そうそう、落ちた落ちた!いつだったかしら?」

「ほら、札幌に異動したとき____________」





サッポロ?

八坂さん、札幌に異動したことがあったの?




違和感。あんな、出世街道ネコまっしぐらみたいな人が。



興味をそそられて顔を上げたとき、反対側を歩いていた先輩に肩を叩かれる。


「来週の牧さんの出張なんだけど、」

慌てて、片手で手帳を引き抜いて予定を確認する。忘れてた、飛行機の手配がまだだった!汗



あっという間に現実に引き戻されている間に。

相変わらず社内のイケ男事情に花を咲かせるチームとは、歩みを別にしてしまっていた。









社食でランチしようという誘いを、さり気なく断る。
生理痛で、食欲がないというフリで。

社食には行きたくなかった。十中八九、この流れでは柊介とのロマンスを強請られると思ったから。



買い置きのカップスープをロッカーから引き出して、人気の引いたオフィスで一人お湯を注ぐ。

PCのメールボックスを立ち上げて、離席中に届いたメールを確認する。

牧さんからの通達に、地方支社からの数字の報告。
差出人の名にザッと目を通し、カップに差し込んだスプーンを回した。





指先をほぐす温もりと、鼻先を湿らせる湯気。

浮かんだ物足りなさを、晴らしてくれるどころか助長する。




差出人の中に、八坂さんの名前を探した。

見当たらなくて、少し落ちた。






先週の金曜日までは、名前があって初めて浮ついた。
それがたった二日で、名前がないだけで気が落ちるようになってる。


欲張りになってる。
もう期待しないって決めたのに。






あの盗むようなキスの

散々な後遺症だ。