昨夜の後味 _ 11
フワフワの、栗色の髪。
陽気なのにどこか鋭い視線と、穏やかに持ち上がった口元。
質の良さそうなスーツを小慣れた感じに着崩すやり方も、何一つ変わってなかった。
「久しぶりだな、藤澤。」
『お久しぶりです。お帰りなさい!』
向かいに座った廣井さんは、相変わらず少年っぽく軽快に振る舞いながら。
無垢の下に、甘い香りの色気を忍ばせていた。
廣「おー、須藤も来てくれてたんだ。老けたなぁ、お前。」
眞「はいセクハラー。エリー、私廣井さんの前やだ。犯される。」
廣「嘘だよ!相変わらず可愛いよ!笑」
眞子が不貞腐れた顔で廣井さんにドリンクメニューを差し出して。
廣井さんが苦笑しながら覗き込む。
そんな些細な光景さえ懐かしくて、無性に楽しくなった。
エ「藤澤は?まだ飲める?」
『今日はさすがに大丈夫。送別会の時のような失態は、致しません。笑』
エ「俺とヤケ酒しようぜ♡」
『ヤケ酒なんてしないっ!』
エリーが大きく口を開けて笑うと、綺麗な歯並びが覗いた。
エリーに揶揄われると、逆に元気が出る。
不思議な人だなぁと、つくづく思わせる涼しい横顔。
エリーの乾杯を合図に、私たちは4本のコロナビールをぶつけ合せた。
薄いゴールドに浮かぶライムが、細かな気泡を纏ってとても綺麗で。気泡が弾ける度に、暗い店内で星が瞬くようだった。
一人ずつの手にあるそれは、何だか宝物みたいに見えた。
『廣井さん、髪伸びましたね〜。向こうってドレスコードないんですか?』
廣「ドレスコードっつーか…社員、俺入れて3人だからね。笑
それに向こうの仕事相手はもっとラフな格好してるからさ。これでも俺、固すぎるって揶揄われるんだよ。」
眞「子供に間違われてるんでしょ?童顔でチビだから。」
廣「須藤、しばくぞ?笑
けどなぁ、そっか。こっち戻る前にはまず髪切らないと。
サーフィンやり出してから、色もだいぶ抜けたしなぁ…」
『えっ、廣井さん戻って来るんですか?一時帰国じゃないの?』
廣「いや?今回のは一時帰国だよ。」
今回の?と。私と眞子の声が、綺麗に重なった。
廣「あれ?言ってないの?」
エ「だってまだ公示前じゃないすか。」
エリーが即答すると、廣井さんは「真面目か」と笑った。
廣「俺、来月からこっち戻るんだよ。」
『えー!!』
思わず前のめりになると、廣井さんがふざけて仰け反って。
嬉しい。廣井さんがまた戻ってくるなんて、素直に嬉しい!
エ「海外営業部の二課、課長に昇進するんだって。」
眞「えー!!!!!!!!!!」
今度は眞子が、エリーの言葉に目を剥いた。
眞「なんで?!」
廣「なんでって何だよ。」
突如身を乗り出した眞子に、笑いながら席を立ったエリーを何となく目で追って。
テーブルに向き直ると、血走った目で廣井さんを追い詰める眞子から飛び出した言葉は。
眞「だって二課って、八坂さんいるじゃないですか!!!」



