昨夜の後味 _ 10
エリーはこんな可愛い顔をしておいて、恐ろしく頭が良い。
中高は県でトップクラスの進学校だったと聞いた事があったけど。
こんな華奢な身体で、スポーツも万能。大学時代はインターハイにまで出場するような強豪校のラクロス部、主将を務めていたイメージの方が強くて。
ゴリゴリの体育会系出身のはずなのに、たまに難しそうな本を読んでるな…そんな印象しかなかった。
だけど、入社二年目の秋、彼が会計士の資格を取得したと社内報で知らされた。
『なんで?!会社辞めるの?!』問い詰めた私に、彼は笑いながら。
「辞めないよ。資格手当で給料上がるって聞いたから。」
あっさりそう言ってのけた彼は、私の中である種の危険人物に認定された。
“この人とは、きっと頭の作りが違う”
“何もかも見透かされてしまいそう”
それから私は、エリーに言えない事が増える度怖くなる。
もう一度、そっと目線を上げると。
エリーはまだ頬杖をついたまま、私を見ていた。
『…エリーも、ピザ食べる?』
「大丈夫だよ、自分で取るから。」
落ち着け、私。
エリーと八坂さんの話をしたことなんてないし。そもそも、私たち…私と八坂さんの接点はどこにもないし。
眞「十和、ピザありがとー♡」
話しておこうかな。今ならまだ、眞子も隠されてたと怒ることもないよね。
ていうか、そもそも何で八坂さんだと隠したくなったのかも、分からなくなってきたし。
ていうかそもそも!
また八坂さんと会うことがあるかも、分からないし。
エリーの言う通り、八坂さんこそあれは男の遊び感覚で。深い意味なんてなかったのかも。
じゃないと、名前も知らない私にキスしてみようなんて、思うわけがない__________
『あ、あのね、二人とも!』
伸びたチーズに苦戦する眞子が視線を上げた時、テーブルの上の携帯が震えだした。
エ「お、廣井さん。」
騒がしい店内を避けるように、携帯を耳に当てて席を立つエリー。
言い損ねた。。ホッ、なのか、ガッカリ、なのか。
微妙な気持ちでその背中を見つめていると、やっとチーズから解放された眞子が脇腹を突く。
眞「ねぇ、そう言えばちゃんと携帯の電源入れた?」
『入れた入れた。偉いでしょ?』
眞「来てた?連絡。」
『電源入れてから、まだ見てないけど…』
ゴヤールのバッグの中を覗けば、すぐにチカチカと光る青い光に気づく。
グッと首を絞められるような息苦しさを感じて、恐る恐る手に取った。
画面をタップすれば、そこには__________
『…やばい。涙』
眞「でしょーね。」
こんなに着信履歴って保存できるの?というほどの。見たこともない数字が不在着信数を示していた。
LINEアプリの横にも、二桁の数字。きっとこのほとんどが、当たり前に柊介だと思われる。
隣から画面を覗き込んでいた眞子が、アチャーと棒読みした。
『か、掛け直そうかな…』
眞「心配してるだろうからね、お門違いだけど。メール一本くらい、入れとく?」
『なんて?』
眞「そうねぇ〜、何か一言で息の根止められるような…」
眞子が瞳に怒りを滾らせかけたその時。
「おっす。悪いな、遅くなって。」
『廣井さん!』
ちっとも変わらない、三日月の瞳を携えた笑顔で。
その人は、その小柄な体系には似つかわしくないほどの大きな荷物で現れた。
「日本暑いな〜!服装間違えたわ。笑」
軽々と荷物を降ろして、脱いだコートをエリーに預ける。相変わらず厚く鍛えられた背中が覗いて、懐かしさがこみ上げた。



