一番嫌いなパターン。言いかけて、やめる。


『なに?言って?』

「金曜に話す。」

『嫌。気になる。』


苛立ちが口調を強める。
柊介の眉は、キュッと間隔を縮めた。
小さな溜め息を吐いて、それでも十分な間をあける。


「・・・あのさ。」

『うん。』

「八坂と、親しいのか?」




次に間を生むのは、私の番。

“八坂”

思わず出てきたワードに、一瞬誰のことだか分からないくらいだった。




『八坂さん?』

繰り返しながら、自分に言い聞かせる。
八坂さん。あの、八坂さん。

『え?なんで?』


まずい。
浮気してるの?っていう質問に質問で答えられた時は、肯定だって眞子が言ってた。

って違う!汗
別に私、浮気してないし・・・キスは、したけど。

それを言うなら、エリーともしたけど。
けどエリーは八坂さんとは違う!
八坂さんとのキスみたいな、衝動や本能的なものなんかじゃなくって。
浮気とかそんなものでもなくて、痺れるほど切なくて、痛痒いほど甘い________


って、あれ?
私、八坂さんとのキスは本能的だと思ってるの?



________違う違う違う!!!汗
今はそんなこと考えてる場合じゃない!!!






『別に親しくなんかな、』

「いつから?」


混乱する頭から捻り出した答えは、すぐに次の質問に被せられた。


「いつから八坂と知り合いだった?」



柊介の質問の意図が分からない。

出会ったのは、柊介の浮気現場を目撃した日だよ。

そんなこと答えられないけど、そういう単純な回答を欲しがっているわけじゃない気がする。

まるで、何か確信があって。確かめようとしているような。
鋭いくせに、不安を抱えた眼光。




『・・・ねぇ、どうしたの?何か変だよ?』


視線を落とした柊介は、溜め息を吐いた。


「・・・もういい。ごめん、忘れて。」


形の良い唇を、下だけ噛んで。
ちっとも、“もういい”様子ではない表情で。