不謹慎だけれど、柊介に恋した日を思い出した。
黒いスーツに身を包み、喪主として完璧に立ち回る柊介の姿は、凜としていて。
遠くから見るその姿に、私の胸は切なく焦れた。
横顔を、立ち居振る舞いを、目で追ってしまう。
まるで三年前。
柊介に夢中になった、出会ったばかりの頃みたい。
“どうだ、いい男だろう。”
食事をした夜の帰り道。タクシーを捕まえるために通りへ出た柊介への、誇らしげな寅次さんの言葉が蘇る。
こんな時に、こんな感情。
悪戯好きな寅次さんの置き土産かな。
そう思えば湿っぽい気持ちにもならずにすんで、私は涙を流さずに寅次さんにさよならを言えた。
一番後ろの端の席に座っていたおかげで、すぐに会場を出ることが出来て。第一陣で一階のインフォメーションにたどり着く。
出棺、どうしよう。だけど、当たり前だけれど、明日香ちゃんの結婚式で顔を合わせた事がある方が何人かいた。
今の状況だと、ご挨拶するのも気まずい。
優しい期待をされても。
今の私たちは、その期待に応えられる状況でもない。
どちらにしろ、小堺課長に無事終わったことを連絡しよう。
出棺まで見届けるとしても、端っこの方で終わったら即タクシーに飛び乗って、誰にも気づかれないようにしたい。
受付の女性にタクシーを一台呼んで貰うよう伝えて、携帯を取り出したところで____________
「十和子。」
振り向けば、息を切らした彼の姿。
『柊介・・・。』
「来てくれてありがとう。明日香に聞いたよ、小堺さんにも宜しく伝えて。
あと牧さんからも弔電を_______ああ、あと花山さんからも、」
『大丈夫だよ、みんなちゃんと分かってるから。』
慌てた様子をたしなめる。みんな、柊介に気遣って欲しくてお悔やみを届けた人なんていないはずだから。
不意を突かれた、表情の後。
「そうだな。ごめん。」
くしゃりと目を細めて、はにかんだ。
「少し話せる?」
『私は大丈夫だけど・・・』
納棺は?抜け出して大丈夫なの?
それとももう終わったの?
気になったけれど、切り出すのが憚られた。
「今週の金曜、食事に行かないか?」
『え?』
「御礼をさせて。」
『えっ、御礼なんてしてもらうことは、』
「江里の話が聞きたい。」
狡い。
それを言われると・・・断るわけには、いかない。
『うん・・・分かった。』
「何時頃終わる?」
『19:00には出れると思うけど。柊介に合わせる。』
「俺もそれくらいで大丈夫だよ。あとさ、」
何か言おうとして、言い淀む。
『なに?』
「・・・いや、いい。」



