ピンポーン


いつもより遅くなるチャイム

「遅せーんだよ」

と悪態を付けながら玄関のドアを開ける俺こと目黒 青。

「えー別に遅れてないじゃん」

そう言いながらふにゃって笑うコイツは俺の彼女。三浦 雨。

「寝癖ついてる」

「嘘!?どこどこ?直してー」

「嘘だよ。バーカ」

そう言って不意打ちのキス。

ニヤッて笑う俺にちょっと困ったような嬉しそうな顔をする雨。

こういう雨の顔が結構好きだったりする。

「とにかく行くぞ」

俺たちは今日から高校2年生になる。

雨が隣の家に引っ越して来たのは丁度1年前の話だ。付き合うようになってからは2ヶ月が過ぎた。

家から学校は十分に徒歩でいける距離なので付き合ってからは一緒に登校するようにしている。

「今年は同じクラスだといいねー」

「俺は別にー」

「えー青は同じクラスになれなくていいのー?」

「別にどのクラスでもいいんじゃね?」

「なんでさー」

ちょっと不機嫌気味になってる雨の髪をくしゃくしゃにしながら

「さあーな」

って誤摩化す俺。

そんなの決まってる。クラスが別になろうがどうせ俺が会いに行くし。

でも俺だってどうせなら一緒がいいと思っている。

そろそろ学校が見えて来た。

クラスは俺たちが望んでいた通り同じクラスになった。

クラス表を見てすごく嬉しそうな顔をする雨を見てつい頬が緩む俺。

「おうおう。新学期早々見せつけちゃって!公認バカップルさん!」

そう俺たちを揶揄ってきたのは俺の幼馴染みの三輪 快都。

「だったらお前は公認馬鹿だな」

言い返す俺。

「おはよー三浦ちゃん」

俺のことを無視して雨に挨拶するカイ。ムカつく

「おはよ。三輪」

挨拶を返す雨。去年はこの二人だけ同じクラスだったが今年は三人そろって同じクラスになった。

去年、この二人は出席番号が近くて直ぐ仲良くなった。そのおかげで俺も雨を知ることが出来た。

でもだからってこの二人が仲いいのを黙って見てられるほど俺は出来た人間じゃない。

まだ仲良く話してるカイと話してる雨の肩に肘をのせて体重をかける。

「なんだよおー青ー。重い」

無意識に上目遣いで言ってくる雨に不覚にもドキっとしてしまった。斜め上から睨め付けようとしたのに…。

「うるせチビ。先に行く」

「ええー、一緒に行くー」

カイトを置いて俺に小走りでついてくる雨を見て、後ろのカイトに不敵の笑みを見せる。

「・・・・ガキ」

カイトはそう呟くと

「俺を置いて行くなあー」

って言いながら追いかけて来た。

席はもちろん出席番号順で俺の前がカイでカイの前が雨という形になった。

たったの二つ前に座っているはずなのにカイがでかすぎて見えないってことだけで少しイライラしてしまう自分に呆れてため息をつく。

(俺っていつからこんなに独占心強かったっけ・・・)

今日は午前授業で終わりだったのでボーッとしてたら学校が終っていた。

「おい。帰るぞ」

雨に声をかけると慌てて帰る準備をしだす。

二人で肩を並べながら教室を出て行く。

校門を抜けると櫻の並木道へと繋がる。

赤煉瓦を踏む靴からの音が心地よい。

「なんかいいね!」

いきなり雨が青い空を見ながら言った。

「何が?」

話が見えない俺は聞いた。でもそれに答えず雨は微笑むばかりだった。

「ね?憶えてる?」

そしてまたいきなり聞いて来た。

「何をだよ」

「うちが初めてこの学校に登校する時に学校まで案内してくれたじゃん?」

「ああ」

「あの時さ、青めっちゃ歩くの速くてさー、大変だったんだよ?」

「そうだっけ」

「そうなんだよ!ついてくの本当に大変でさ、肩で息してたよ!」

「なんか悪いな」

「別に今更謝って欲しい訳じゃなくてね。ただ今こうやって肩を並べて歩いてる青がすごく好きだなあーって・・思ってさ」

ずるい。コイツは本当にずるい。そういうことをその真っすぐな笑顔を浮かべながら言ってくるんだか
ら好きになるしかないじゃないか・・・。

「・・な、何言ってるんだよ。急に。歩幅合わせるぐらい当たり前だろ!」

少し顔が赤くなってくるのを自覚して雨から顔を背ける。

「なんだよ。照れてるのかよ−www・・・・・でもさ当たり前なんかじゃないよ・・・すごくかっこいいことだよ」

「もーストップ。これ以上はいろいろダメだから」

俺は雨の口を唇で軽く塞ぐ。

突然の俺の反撃に固まってしまった雨。それからどんどん赤くなる。

「もーーここどこだと思ってるのさーー!!ほんとやめてよねー?////」

俺はしてやったりと意地悪な笑みを浮かべ走り出す。

「逃げんなー!!」

そういって思いっ切り俺の方に走ってくる雨が急に愛おしくなって抱きしめる。

「好きだ」

ってそう耳元で囁くとお決まりのように赤くなり返ってくるその

『先に言うなバカ』

っていう言葉さえもすごく愛おしい。