●4月1日●
AM8:15

《聖愛Side》

風に煽られ舞う桜。

真新しい制服に身を包み、真新しいカバンを手にした時、私は感動を覚えた。


「うわぁ、やっぱこの制服かわいい!!」


水色の襟に、小さな蝶が刺繍されている。
赤いリボンはボタンで止めるタイプだからすごく楽だし。

制服が可愛い、そして保育科がある。
その2つの理由で私、宮野 聖愛《みやの まりあ》が第一志望だった『桜庭凛王高校』。
通称『凛高』に後期だけで合格。
前期は、念の為にと受けた私立だった。
……まぁそっちも合格して、でも行く気は0だったんだけど。笑


「まりーっ!!合格おめでと!」

「お姉ちゃん!ありがとう♪」


私を『まりー』と呼んでいる姉の祝福の言葉を受けて、私はそとへでた。
爽やかなそよ風が私を出迎える。


「はぁー、気持ちいい〜…」


大きく息を吸って、大きく息を吐く。


「あ、聖愛おはよ!」


そう言って声をかけてくれたのは、中学校の頃仲良くなった、


「美晴ちゃんっ!」


眞壁 美晴《まかべ みはる》ちゃん。


「なになに?なんか、おしゃれなことしてそうな雰囲気出てんじゃん(笑)」


可愛くてスポーティーで若干男の子っぽい女の子。
ケンカとか争いごととか曲がったことが大嫌いで、いつも素直で優しくてニコニコしてて。
でも怒るとすごく怖くて。

そんな美晴ちゃんが、私は大好き。


「空気吸ってただけだよ(笑)ってか美晴ちゃん…その制服…!」

「ン?凛高だよー♪って、聖愛も?!」


これこそまさに奇跡ってか運命ってものなんじゃないか。
その時本気でそう思った。
  

「じゃあ聖愛、今年もよろしくだね(笑)」

「こちらこそだよ!!!」


目を見合わせて爆笑して、私達は歩き出した。


「桜、満開だね♡」

「ここらへんの桜って満開になる時期が少し遅いから、入学式の時とかが一番綺麗なんだよね。」


公園で風に吹かれている桜を見て、私たちはそう言った。

本当に綺麗…。

ここの桜、柿桜っていうんだけど、柿桜は少しオレンジっぽくなってくると満開の時期が終わるっていう印。

他の桜に比べて満開の時期が遅くて、美晴ちゃんの言うとおり入学式の時とかが一番綺麗な時期になる。

特にこの辺は公園とかが多いから、柿桜もたくさんあって。

一種のデートコースみたいな感じにもなってるって噂で、最近有名になりつつある。


「でも嬉しいよね。」

「ん??」

「自分が知ってるスポットが、こんなに綺麗なところなんて。」


たしかに…。
彼氏と一緒に見たいなぁ……。
……って、何考えてんだ私!!ダメだダメだ。
恋愛なんて…。…でも高校生だし…。
あぁ、そっか、私もう高校生なんだ…。


「…まだ元カレのこと許せてない?」


美晴ちゃんが静かに聞く。

…元カレ…。


−2年前−

「ユウキ~♡おっはよ!」


私はその日、いつもどおり登校して彼氏のユウキに挨拶した。

でも_____.


「ん」


その一文字で済まされたその日の朝は、なぜかものすごく胸騒ぎがした。

そして事件は、お昼休みに起きた。


「好きだよカレン…。」


講堂に忘れ物を取りに行った時、たまたま見てしまった。知らない女子に笑顔で唇を重ねる彼の姿を。


「っ…」


声が出なかった。
ショックと、怒りと、虚しさで。

その時、講堂の机にぶつかり音が鳴った。
慌てて隠れ、彼には見つからなかったらしく、近づいてくる様子はなかった。


「あの、ユウキ…今日どっか行かない?」

「あー、わり。今日は無理だわ」


今日『は』じゃないでしょ…今日『も』でしょ?
あの女とどこか行くのね。

そう考えた瞬間、私の中の何かがプツッと切れた。


「あの女とどこへ行くの?遊園地?カフェ?それともお家デート?」
「は?」
「ユウキ、浮気してるよね。」
「何言ってんだよ、そんなわけねぇだろ。」


あくまでも平然を装う彼に、余計に苛立ちが増す。


「なに?しらばっくれるの?」

「しらばっくれるもなにも、事実じゃねぇんだから」

「とぼけないでよ!!私見たのよ!!知らない女子と笑顔でキスしてるとこ!!講堂で…あの時…昼休みに…っ」


涙がこぼれてうまく話せない。


「私…信じてたのよ…ユウキのこと。好きだったから…大好きだった…なのにどうして!?」

「…チッ。やっぱいたのかよ。お前、マジでうぜぇんだよ。いっつもベタベタくっついてきてさ。ストーカーかっての。
俺さ、お前みたいなストーカー女一番嫌いなんだよ。
第一、お前は遊びだったんだよ。それに気付かないバカが悪いんだっての。俺のせいにすんなよ。」

「き、気付いてたの…?!」

「え、気づいてないと思ってた?バカだろ。
あんなゴトンッって鳴らしといたくせにw」

「もう別れよう…遊びだったんだよね、いいよね…っ!」

「ん、俺は別にいつ別れても良かったけど?wただお前がストーカーしてくるからさ、しゃーねーからお遊びに付き合ってやってただけだし。
んじゃあな、もう話しかけてくんなよー。」

「会いたくもないわ!!」


その後私は、美晴ちゃんに泣きついた。


  〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~

「大丈夫…。大丈夫だよ…。」

「そっか___。まぁ高校でちゃんとした恋愛しよーよ!!」

「うん、出来たら…ね(笑)」


私はそっとため息をついた。

もうあんな男、忘れなきゃ。


「美晴ちゃん!門!門見えてきた!!」

「ほんとだ、きれいだねー、外見は(笑)」

「ウンウン♪」


門をくぐると、そこには中学校とは違う雰囲気をまとった校舎が連なっていた。


「新入生?」


後ろから突然話しかけてきた先輩らしき人。
潤んだ瞳に整った鼻、少し分厚い唇に、少し毛先にカールをかけた茶髪がよく似合う女の人。

一言でいうとそう…女神的な美女。


「はい!あの、先輩ですよね?」

「生徒会の副会長、海原 梨沙《うみはら りさ》です。よろしくね♪」

「よろしくお願いします!私は真壁美晴です。」
「み、宮野聖愛です…!」

「美晴ちゃんと聖愛ちゃんね!よろしく。凛高にようこそ!生徒会長ももうすぐ登校してくると思うわ。」

「副会長!生徒会長が来ました!」

「ありがとう!彼女は生徒会長の秘書、新藤 真琴ちゃん。まこっちゃんって呼ばれてるのよ(笑)」


なんだか本格的…まるで有名人みたい。
秘書なんているんだ。

美晴ちゃんと感心していると、生徒会長と思われる男の人がやってきて、私たちの前に立った。


「生徒会長の山田涼。俺面倒なこと嫌いだから会長らしいことなーんにもしないけど、これからなにかと関わると思うから、まぁよろしくね。」

「「よろしくお願いします!!」」

「あ、自己紹介は後でりっちゃんに聞いとくからいいよ。教室行きな。」

「はい!!」

「…はい」

なんだろう。この人、不思議な感じがする…。