彼女は泣いていた。


 僕が泣かしたのか、原因は分からない。


 顔を覆った彼女の指の隙間から涙が滴り落ちる。
 夕陽に照らされ、宝石のように煌めきながら地面に吸い寄せられていく。


 遠くのほうからヒグラシが鳴いているが、僕の耳には彼女の嗚咽だけが響いている。


 泣くなよ、泣かないで。


 僕の目じりにも涙が浮かんでくる。


 どうして彼女は泣いてしまったのか。それさえも理解できない僕はバカだろうか。


 青く澄み渡っていた空は茜色に染まる。


 西の空に沈もうとしているボールのような夕陽が僕たちを照らし、足元に長い影が伸びる。


 夕暮れは美しいはずなのに、曇天のようにどんよりしているように見えた。