清春は困惑顔で瀬名を見ると、瀬名はそのまま、視線を逸らし、エレベーターに乗って行ってしまった。

「…嫌われてるみたいだな、俺」
「…え」

私の方に振り返った清春はそう言って苦笑した。私はなんと言い返したらいいかわからず、黙り込む。

清春はまた前を向いたかと思えば、エレベーターの方に向かって歩き出し、ボタンを押した。

「…江藤さん」
「…はい」

「…急な異動があるんだけど、心当たりある?」
「…誰のですか?私は、何も知りませんが」

心当たりはあるけれど、知らぬ存ぜぬで通すしかない。

「…江藤さんの異動だよ」
「…え⁈」

…あからさまに、変な驚き方をしてしまったが、もう遅い。

それに気づいたのか、清春はまた苦笑した。

「…江藤さんは、嘘がつけない人なんだね」
「…」

返す言葉もありません。

「…江藤さんは、専務の事…好き?」
「……好きです」

「大変な思いをしても?」
「…冒険するような歳じゃないのは、十分分かってるんです。でも、好きになったものはどうしようもない。逃げるつもりも、諦めるつもりもないです…ぁ、すみません、主任の気持ちを無視する形になってしまって」

慌ててそう言えば、清春は、困ったような笑みを浮かべて、首を振った。