その手を辿って視線を上げれば、怖い顔の瀬名…ではなく、一条社長が私を見下ろしている。

「…何か?」
「…話がある」

「…先日は、大変失礼しました。…他人の空似も、恐ろしいと痛感しました。…私には、話などございませんが」

私の返事に、怪訝な顔をする一条社長。自分の会社のトップ、盾なんかついてたら、クビになるかもしれない。でも、今は1分1秒でも早く、この場を立ち去りたかった。

「…お前は、俺と誰を間違えた?」
「…私には、江藤春香という名前があります。お前呼ばわりされる筋合いはない」

そう言って睨めば、今度は目を見開いた一条社長。…だが、直ぐに、ククッと肩で笑う。

今度は、私が怪訝な顔をする番だ。

「…変わった女だな」
「…その辺の女と一緒にされては困ります。…それから、この手を離してください。社長と平社員の私が手を握り合ってると、変に怪しまれるので」

「…逃げないなら」
「…逃げません」

私の返事に、一条社長はようやく手を離した。

…握られていた場所が少し赤くなっていた。

「…悪い、力が強過ぎた」
「…いえ」

「…江藤さん、俺と誰を間違えた?」
「…友人です」

「…友人…最近、専務がうちに帰ってこない。江藤さんは、専務と知り合いじゃないか?」

…専務?…顔も見たことないが。と、思う。…あれ?そういえば、清春も専務の顔を知らないと言ったら、驚いてたな。

…でも、話が全く噛み合わない。