「…江藤さん、専務に会ったことないの?」

恐る恐る尋ねる清春。

「…そうですね。会社の全体会の時でも、遠過ぎて顔は見えないし、社内で見かけたこともないし。社長や他の重役とかも、私には縁遠い存在ですね」

何て言いながら、苦笑してみせる。

「…でも、あれ?おかしいなぁ…」
「…何がおかしいんですか?」

「え?だって、ほら、昨日の夜だって」
「…昨日の夜??」

「「…」」

二人で顔を見合わせて、二人とも困惑顔。

「…ゴメン、俺の勘違いかもしれないからいいや」
「何ですか、それ?」

「いや、うん、いい。それより、オフィスに行こう」
「…はい」

…清春が何が言いたいのかさっぱりわからないまま、私は清春と共に、オフィスに向かった。

…それから何日経ったのか?…瀬名が居なくなって一週間。

一度も家に帰って来ることはなく、もう、本当に帰って来ないんだとおもうようになっていた。

「…瀬名の奴、家の鍵返してくれてないし、どうしてくれんのよ」

今日も残業して、帰りの遅くなった私は、そんな事をボヤきながら、会社を出た時だった。

「…ぁ」

…たった今、悪態をついてやりたい人物が立っているではないか。

私は握りこぶしを作り、その人の前まで歩み寄ると、肩を叩いた。

「チョット、瀬名!あんたどこに行ってたのよ⁈もう帰って来ないなら、私んちの鍵、返して!」