♠消える

動物園に行く前日。
行くための準備をして子供と一緒にはしゃいでいた。
いつもならこの時間に
「今から帰るね。」ってメールが来るはずなのに来てなかった。
すると、1本の電話がかかってきた。
それは、病院からだった。
不思議に思いながら子供を連れて病院に向かった。
すると、そこには眠っているように横たわっている「人」の姿が。
そばには、凛と颯太がいた。
何が起きたのか分からなかった。
「凛?なに?これ。」
「…新だよ。」
私は凛が言ったことが理解できなかった。
「違うよ。だって新はもうすぐ帰ってくるもん。私たちの家に元気よくただいま!って。」
「結衣…」
「やめてよ、変な嘘。あー、笑える。」
私は顔をひきつらせて言った。
そのまま私はその「人」に背を向けた。
「結衣!!!」
ビクッ!
颯太の大きな声に私の体が反応した。
「…家に帰る途中に事故に遭って。即死だったって…。」
「嘘。」
「それから、新の車の助手席にこれが。」
そう言って持ってきたのは白い箱に入ったケーキだった。
箱が少しつぶれていたが中身は綺麗なままだった。
メッセージの部分には
『愛するゆいへ お誕生日おめでとう』
と書かれていた。
それを見て思い出す。
「…今日、私誕生日だ。」
忙しくて自分の誕生日も忘れていたのに新は覚えていてくれた。
私は涙が止まらなかった。
ねぇ、新。嘘だよね?
だって昨日約束したじゃん。
動物園に行こうって。
言ったじゃん。
ぁ、これは夢なんだ。
そう、きっと夢。
私は自分自身を叩き始めた。
痛みを加えれば夢は覚めるはずだから。
「結衣!やめてよ!これは夢なんかじゃない!」
凛と颯太は必死に私を止めてくれた。
落ち着いた後私はまた、颯太に聞いた。
「ねぇ、颯太?これ、嘘なんでしょ?」
颯太は何も言わず私から顔を背けた。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
「イヤァーーーーーーーーーーッ!!!」
私は思いっきり叫んだ。

新が死んだ。
そんなわけない。
信じたくない。
この瞬間私の世界から光が消えた。
もう、新のあの笑顔を見ることが出来ない。
新に触れられない。
声が聞けない。
一緒にどこにも行けない。
そばにいられない。
この世に新が…いない。
新の死を乗り越えるのに結構な時間がかかった。
しばらくは生きている心地さえなかった。
自分でも何をしたらいいのか分からず、
ずっと病院で精神安定剤を打って過ごしていた。
やっと、気持ちが落ち着いたとき私は子供と新のお葬式に出た。
「ねぇ?ママ。パパは?どこへ行っちゃったの?」
「パパはね、お空に行ったんだよ。」
「いつ帰ってくるの?」
「…もう、帰ってこないの。」
「なんで?どうして?」
「…ごめんね。」
私はなにも言えなかった。
その時も涙は出なかった。枯れてしまっていた。

ねぇ、神様。
私達何かしましたか?
どうして新が死ななくちゃいけなかったんですか?
教えて下さい…。