♠届かない心
香side

「こ…さん。」
結衣は目を見開いてこっちを見た。
俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声で名前を呼んだ。
結衣の声だけはどんなに小さくても心まで届いてくる。それがどんな感情に交じっていても。
「結衣…。」
結衣は振り向き走り出した。
琉の中へ。結衣はそのまま動かず、琉の中にいた。
「ごめん…なさい。」
結衣は消えてしまうかのような小さな声でそう言って走って行ってしまった。
「結衣!」
俺の伸ばした手は結衣には届かなかった。
その手は寂しそうに見えた。

「くっ!」
俺は結衣を追いかけて走りだした。
「香!」
「んだよ!」
「お前、追いかけてどうする!?…何ができるんだよ。」
「なんだと!?」
「結衣ちゃんはなんでお前の前から姿を消した!」
「そんなこと…。」
「わかってんだろ!もしここでお前が追いかければ今までやってきたことが全部無駄になるんだぞ!?」
「…」
「お前の苦しみも。結衣ちゃんの苦しみも…。俺が行く。お前は帰れ。」
琉は俺の前を走り去っていった。
俺には、何ができる…。あいつを結衣を守るにはどうしたらいい…。