♠本当のこと
香side

「ふぅー」
俺はホテルのベランダでタバコを吸いながら考えていた。
結衣が別れを切り出した理由。いろんな可能性を考えた。
ふと、あることが頭をよぎった。
いつも仕事をしているときふと結衣の顔を見ると悲しい顔をしていることが多かった。
その後理由を聞いても、何でもないって教えてくれなかった。
…もしかしたら。
俺は携帯を持ち女を置いてホテルを後にした。
途中で女が何か話していたようだったけど、そんなのどうでもいい。

俺が向かったさきは、凛の家。
ピーンポーン。俺は乱れた息を整えチャイムを押した。
「はーい。」
えっ?小さな子を抱いた凛の姿が。
「凛…。」
俺はいつの間にか声を出していた。
「あ、この子ですか?うちの子です。優です。」
凛は子供の手をぶらぶらとさせながら笑っていた。
「あ、あぁ。」
俺は急なことで何も言えなかった。
「で、どうしたんですか?」
「あぁ、結衣のことなんだけど。」
凛は真面目な顔をして
「立ち話もなんですから中に入って下さい。」
と言ってドアを大きく開けてくれた。幸いかどうかはわからないけれど颯太は仕事でいないのだという。
「結衣がどうかしましたか?」
「凛に俺の仕事がどうとか言ってなかったか?」
「仕事…。あぁ、言っていたような気がします。…それが今回のことに関係があるんですか?」
「今はそれしかない。」
結衣は、俺の仕事を気にして消えた。
将来を気にして消えた。俺のためを思って。
結衣より大事なものなんてないのに。結衣を失うのが何よりも怖いのに…。
俺がちゃんと言わなかったから。お前が一番だって言わなかったから。
「…香さん?」
「それが、理由。俺のせいだ…。」
「…香さん。私思うんです。もしそれが本当の理由で姿を消したんだとしたら、香さんは何をすべきか。どこへ行くべきか。香さんだったら分かりますよね?」
何をすべきか、どこに行くべきか。
「考えてみてください。」
「わかった。」
「それが結衣の願いでもあると思うんです。」
願い…。
凛はいつの間にか寝てしまっていた優をベッドへと運んだ。
ふと、時計を見ると8時半。そろそろ家に帰るか。
「凛、帰るよ。ありがとう。」
「はい。」
そういって凛は笑ってくれた。