♠見えなくなりそうで
結衣side

よし。これでオッケイ。久しぶりに仕事へ行く準備をする。
ドキドキするな。
「結衣ー。行くぞー。」
「はーい。」
私と香さんは会社では付き合ってないってなってるけど、
やっぱり恋人なので朝は一緒に電車で行く。
最初香さんは、
「俺の車で一緒に行けばいい。」って言ってたけどそれはさすがに見つかった時に言い訳ができないからやめた。
でも朝の通勤電車は人が多くて大変。香さんは
「結衣、大丈夫か?「触られてないか?」って心配してくれる。
電車に乗るとき香さんは私を覆い隠すようにして乗ってる。
ちょっと恥ずかしいけど、「これが一番お前を守れるから」って変えてくれない。
顔が近くて息ができない…。
会社に着くとみんなが「退院おめでとう」って言ってくれた。
中には、「香さんに看病されてたんでしょ?うらやましい!」ってからかってくる人もいた。
でも、それも含めて私は幸せを感じた。

私が香さんに仕事を教えてもらっていると。
「高橋君、ちょっといいかな。」
社長が深刻そうな顔をして香さんを呼んだ。
「あ、はい。今行きます。結衣ちょっと待ってろ。すぐ戻るから。」
「はい。」
香さんは社長室に入っていった。
社長室はガラス張りになっていて、外から中が見えるようになっている。
何を話しているんだろう。
香さんは社長が発した言葉にビックリしているようだった。
香さんはその言葉に反論していた。
案に必死になってる香さん初めて見た。
話を終え、社長室から出てきた香さんと目が合った。
香さんはすぐに私から目をそらしどこかへ行ってしまった。
香さんはそのまま部下に声をかけ何やら私を見て話している。
すると、香さんと話していた男の子がこっちに来た。
「なんか高橋さん、用があるからって帰るらしいからここからは僕が教えるよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
なんで?香さんが私にほかのやつと話すなって言ったのに。
どうして、わざわざそうなるように仕向けるの?
私は、不安を抱えながら仕事を終えて一人で帰った。
いつも香さんのいる隣は知らない人たちばかりで、怖かった。
今まで香さんがどれだけ守っていてくれていたか分かった。
「ただいまぁ。」
「…。」
あれ、誰もいない。琉さんは仕事で遅くなるって言ってたっけ。
でも、香さんは先に帰ってるはずじゃ…。
♪♪♪~
あ、香さんからメールだ。
~今日はごめん。遅くなるから先に寝てて。夕飯も要らない。~
なにこれ。避けられる。
身に覚えのない香さんの行動に心臓が高くなる。
私の心のなかは不安で一杯だった。
…とりあえず、琉さん帰ってくるから夕飯の買い物に行かなくちゃ。
私は買い物を済ませ外へ出ると、
「あ、雨。」
そういえば、今朝天気予報で言ってたっけ。
まぁ、いいや。帰ろ。
私はずぶ濡れになりながら歩いて帰った。
家につくとそこには
「おかえり、ってどうしたの?」
「琉さん…。」
「ずぶ濡れで!電話してくれれば迎えに行ったのに。」
「大丈夫です。」
「…なんかあった?」
琉さんの突然の言葉に胸が高鳴る。
「何でもありません。すぐ準備しますね。」
私はその言葉をなかったことにした。

痛ッ!
私は包丁で自分の指を切ってしまった。
「大丈夫!?…珍しいね。結衣ちゃんが怪我なんて。…俺には話してくれない?」
そう聞く琉さんは悲しい顔をしてたけど、なんだか暖かい気がした。
私はその言葉に涙を浮かべた。
「…おいで。」
琉さんは私の腕を掴みダイニングにある食事をする椅子に座らせた。
その後傷の手当てもしてくれた。
「ありがとうございます。」
「さて、話聞こうかな?」
琉さんは深刻な顔をして私を見つめた。
「あの、今日社長と香さんが話してたんです。内容は聞こえなかったんですけど、香さんすごく真剣な顔をしてて。
その後私避けられてるみたいで。」
「なるほどね。」
「何かご存じですか?」
「うん、知ってるよ。全部。」
「教えて下さい。」
「…覚悟して聞いて?」
「はい。」
琉さんはおいてあったコーヒーを一口飲んだ。