<彼女>が拾い上げた『目的』、それは、一度放棄した祈りを再開し、海神に赦してもらい、そして。
そして、仲間たちを蘇らせることだった。
だが、ただ祈ることだけでは意味がないということも重々承知していたので、<彼女>は誠意を、『物』でも表そうとしたのだ。
<彼女>は毎夜、唄を歌う。その唄も、もとは仲間に教わったものだった。それに<彼女>自身が手を加え、海神に捧げる貢物──すなわち、『生け贄』を、呼び寄せるための唄となったのだ。
通りかかった人間や動物を、惑わせ、海へと落ちてきたところを、蔓で押さえ込んで息を奪う。
そんなことを<彼女>は、もう長い間、毎夜毎夜続けている。
目立った効果はまだない。だがそのおかげかどうかはわからないが、<彼女>自身が枯れていく様子もない。
何が罪で 何が罰だか
そんなことはもう 忘れてしまったの
気が遠くなるような 時間の中
孤独の味だけを 噛み締める
ぽつり、ぽつりと、<彼女>は自分の心のままに歌う。
<彼女>は歌うことが好きだった。こうして、何の目的もなく、自分の想いをそのまま歌にのせることが、好きだった。
けれど。
(歌うたびに、息が苦しくなる)
自分の罪を購うため、生け贄を手に入れる手段として、そんな目的のために唄を歌うことが、たまに、仲間から教わった大切なものを汚していっているような、そんな気分になることが、ある。
祈りを捧げるのは、罪を購うため。そして、もう一度、仲間と暮らすため。
そう、自分に言い聞かせても。
──本当にこれは、海神様のもとへ届いているの?
──本当にこれが、皆を蘇らせることに繋がるの?
そんな疑問が、頭をよぎることは止められはしない。
泡の音が遠くで聞こえた。
(また、息が苦しくなる)
──自分は罪を購うために、また罪を重ねているのではないか。
そう思ったことは一度や二度ではない、のに。
──けれど、今さら引き返せもしない。
そう、自分の答えははっきりしているはずなのに。
(息苦しさが、消えない)
それは、どこかに迷いがある証拠でしかなかった。


